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真相

新しくつけた燭台の火が小さく揺れている。

それからややあって、黙り込んでいたエルクがぽつりと呟いた。


「昨日から。

君と話をしてみたいと、ずっとそう思っていました。

恐らく君は僕に見えず、見ることを許されないものを見ているひとだから」


既に部屋に入り込み、椅子の一つに腰掛けている。

来訪者があまりに予想外で呆然としてしまい、止める間もなかった。


「……まずは、連絡を。

明日以降は僕の傘下に入って戦って貰うということになりました。

そういうことですので、お願いします」


「それは、……はい。承知しました。

よろしくお願いします。

ご要件はそれだけですか?」


「いえ、まさか」


しかし、それきりまた黙ってしまう。

そのまま俯いていたが、やっと再び顔を上げた。


「僕は、何も知りませんでした」と、

赤みがかった色の目が、シノレを見つめる。

「今回のエレラフの鎮圧について。

どうしてこのようなことが起こってしまったのか、君の思うところを聞かせてくれませんか」


「お付の方が、幾らでもそうしたことは教えてくれるでしょう。

何も僕などにわざわざ……」


「いいえ。

僕の元へ届く情報は様々に選り分けられ、多くが遮断されています。

……僕が心を乱さぬよう、迷うことがないようにと」


「正しいことでしょう。

ワーレン司教は下賤の者の考えなど、お耳に入れて良いお立場ではないのですから」


「……それが、嫌なのです。

だから君を訪ねました。

此度のことについて。

君には、何か、考えがあるのではないですか?

何も、聞き出して罰しようというのではありません。

ただ知りたいのです」


「……それを知って、どうするおつもりなのですか?」


警戒心が沸き起こる。

エルクの、その真剣な顔に悪意は感じない。

だからといって、用心しなくていいことにはならない。


「ワーレン司教に要らぬことを吹き込んで悪影響を与えたとなれば、猊下はお怒りになるでしょう。

後々問題になった場合咎めを受けるのは僕なのですが、それをお分かりですか」


思いの外声が尖ってしまう。

知りたいという望みは良いが、そのために生じる諸々の影響は知ったことではないというのなら、それは権力者の傲慢というものだ。


だがエルクはそれに、寂しげに微笑んだ。

「猊下とはもう何年も、私的な会話の一つもしていません。

僕の立場がどういうものかは、君にも分かるでしょう。

ワーレンの一人と言えども僕の影響力など些細なもの、聖者様に到底及ぶものではありません。

……まして、人死にを前に倒れかけるような僕が。

そんな情けない有り様で何かを主張したとて、誰が耳を傾けるでしょう。

心配しなくても、君が言うのはただの独り言です。

僕はそれを偶々聞いてしまっただけです」


そこまで一気に捲し立てて、いよいよ切羽詰まった調子で続ける。


「お願いです。知りたいのです。考えたい。

これ以上の無様を晒さないためにも。

そして君は、本来僕に与えられない考えを教えてくれると思うから」


初対面の物静かな印象はどこへやら。

形振り構わず頼み込むその顔に、どうしてか妙な懐かしさを覚えた。


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