奇妙な夢
大攻勢。
その言葉に、俄に動揺が走った。
気にはなるが、騒ぎの中で倒れそうな聖者を置いておくわけにもいかない。
色々と不安だった。
一歩先も見えないような、妙な不安がある。
どうにか送り届けて寝かしつけ、自室に戻った時には疲れ切っていた。
『こんな――……こんな、ことが』
本当にそう言っていたかは分からない。
ただ横たわった聖者が、魘されるように呟いた暗い響きが、妙に耳の奥で籠もっていた。
だからだろうか。
その夜、奇妙な夢を見た。
最初はそれが夢だとは分からなかった。
ただ、気付いた時には暗闇の中にいた。
そこにはずっと、妙な音が響いている。
どれほどの広さなのか、妙に反響していて音の正体は掴み難い。
だがずっと聞こえている内に、啜り上げるような響きが混ざり、やっとその音の正体を知った。
この暗闇の奥に、何者かがいる。
(――泣いている……)
誰かが、泣いている。ずっと泣いている。
頭がきんと痛み、耳鳴りに似た不快感が広がった。
シノレは引き摺られるように、音が響いてくる方へ足を向けた。
そしてどれほど進んだのか、時間の感覚は無くなっていたため分からない。
いつしか足は止まっていた。
闇の底で、光が浮かび上がっている。
ただの白い光だと、一瞬そう思った。
だがすぐに、その中に無限の輝きがあることに気づく。
それは赤でもあり、青でもあり、金でもあり、緑でもあり、揺れ動くとともに変化し一瞬とて同じ色合いはない。
あらゆる光を封じ込めて乱反射された世界があるとしたら、こんなものだろう。
その光景は神々しくすらあって、束の間それが髪の毛だと分からなかった。
それはシノレの視界を染めるように、光の滝のように流れ出している。
周囲の闇を物ともせずに輝くようだ。
背丈よりも長いであろうそれに身を包み、蹲って肩を震わせている。
その度に絢爛な流れが揺らいでは、新たに輝きを放った。
その姿を見ていると、何やら胸に流れ込むような、途方もないほどの悲しみに喉が塞がった。
心を引き絞るような哀切の念に、息をすることすらままならなくなる。
前へ進もうとする足が鈍り、うまく動かない。
シノレは立ち尽くす。
やがて顔を上げ、緩やかに振り返ったその誰かと、目が合う。
刹那の強烈な違和感。
そして次に襲ってきたのは、頭を殴りつけられるような衝撃だった。
一瞬自分がどこにいるのか、何をしているのか、あまつさえ自分が誰なのかすら見失いそうになる。
――聖者だと、そう思った。




