喧騒
そんな感じで、二日目は街見物で終わり、夜はウィザールによる鑑賞会が変わらず催された。
てっきりその日限りの気紛れかと思えば、三日目もそんな調子だった。
「そうか、聖者様はお喜びになったか。それは何よりだ!」
翌日会ったウィリスに再び街に連れ出され、そのまま報告を促された。
一通り聞いた彼は、他人事だろうに酷く嬉しそうに笑った。
「……お金は後で必ずお返しします」
あの文鎮を買った時、一応手持ちは持っていたが――シノレは元々無一文であったが、教団に入ってからは司祭位の者として俸給を与えられている――少し足りなかったのだ。
あんな小さなものがあんな値段とか冗談かと思った。
それじゃあ別の物を選ぼうとしたら、流れるように立て替えられてしまった。
シノレはそれが気になっていた。
今更だろうが、やはり借りっぱなし、流されっぱなしは居心地が悪い。
だが相手は、気にもとめない様子で笑うだけだ。
「気にするなそんなこと。
こちらがしたくてしたのだし。
寧ろこんなもので聖者様の歓心を買えるのならば、破格と言って良かろう」
「……何度も言っていますが聖者様への口添えとかできませんし、期待されても困るんですが」
「冗談だ。あの方の御心が金銭などで動くものか!
……そうであればこそ、猊下もその自由を許しておられる」
笑い声を立てながらも、何故か後半は意味ありげに声を落とした。
そして聞き返す間も与えず、俄に振り向く。
「まあそれは冗談としても、昨日付き合ってくれた礼と思ってくれ。
聖者様にもよろしくな」
それでも一応言い募ろうとしたが、まあ今日は今日で楽しもう、と笑って打ち切られた。
シノレも、何だかもう食い下がっても無駄な気がしたので諦めた。
「……今日もまた、賑やかですね」
昨日も思ったが、随分なお祭り騒ぎである。
今日も昨日と同じように、或いは昨日以上に、賑わった喧騒が街を埋めていた。
エルフェスは初めてだが、ここはいつもこうなのだろうか。
水を向けてみると、ウィリスはくすくすと笑った。
「いや、いつもはここまでではない。
月が変わるまで、もう半月もないだろう?
禁欲期間の前に、最後にはしゃいでおこうと皆騒いでいるのだ。
聖者様もお出で下さったことだしなあ。
後はまあ、サフォリアとの兼ね合いやら、受け入れの準備もあるし……
再来月に、あちらからの人質をここで預かる予定でな。
その後ロスフィークとやり合うそうだが、その前に一つ関門がある。
誰にとっても避けられないことだ」
「……来月のことですね。
あれはどこにどれだけ被害が出るか、完全には読めませんから」
「うん、まあ、こればかりはなあ……
先方のみぞ知ることだから。どうなるやら……
せめて人死にだけは、最小限に留めて欲しいものだ」




