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見せしめ

「――…………」


その時どこからか、異様な気配が漂ってきた。

シノレはそれに敏感に反応した。


楽団のことを色々考えていたからかも知れない。


ぱっと顔を上げて、辺りを探る。

見晴らしの良い通りの景色の、大広場の方から、異様な何かは近づいてくる。


(異様……いやそうじゃない。

ここの雰囲気とは親しまないというだけで、寧ろこれは、僕が良く知っている――)


鉄に近い、生臭いこれは、血のそれだ。


「――……!…………」


ウィリスも遅れて気づき、ぴくりと肩を揺らしてから顔を上げる。

眼下の光景に一瞬眉を顰め、シノレを窺うも、それ以上は反応せず座り直した。


「あれは……」

「ああ。話で聞いたことはあるか?

教団に背いた叛徒の処刑、一言で言えば見せしめだ」


出てきたのは、痩せこけた男だった。

それが襤褸を纏い、手枷足枷を嵌められて檻に入れられている。

その周りを武装した屈強な男たちが取り囲んでいた。


酷く苦しげに軋んだ、呻くような声が聞こえてくる。

檻に入れられた男が、途切れ途切れに祈りを唱えているのだと、少しして気づいた。

襤褸の下に覗く皮膚からは血と膿が滲み、檻の中で蹲るようにして苦悶の声を上げている。

道行く教徒たちはそれを忌々しそうに一瞥して通り過ぎていく。

何か罵声らしきものを浴びせたり、石を投げつける者もいた。その光景に、思わず口に出していた。


「教団でも、こうしたことが良くあるのですか」

「……楽団と同一視はされたくないのだが、様相が近いことは否めまいな。

だがああした憂き目に遭うのは罪人、それも死刑囚だけだ。

定められた則に背き、教団を害したものの末路があれだ。

その手の法の研究、罪科の在り方を整備するのが我が家の役割であり、こうした因果も避けて通れないものであるのだが――……」


言い淀んだウィリスは、少し複雑そうに笑う。


「まあ、あまり愉快なものではない。

だがこれも教徒の義務の一環だ。

……教徒となるにあたって、こうした責任も発生する。

納税、徴兵、各催事への参与に協力……どのような場合においても猊下の聖旨に従い、定められた規則を遵守し、教団全体の利益に寄与することで生を認められる。

それが出来なければ、ああした見せしめとして、他山の石となることで貢献する」

「……それは、分かります」


これこそが、教団の秩序を支えるものなのだろう。

それは日々感じていた。


ここが異世界というのは分かりきっていたことだ。

けれど時々こんな風に、シノレが良く知る、慣れ親しんだものが顔を見せる。

楽団との違いそのものというよりは、その落差に動揺してしまうのだ。

これではいけないと、一つ息をついて心を静める。


「……良く分かりました。わざわざご説明下さり、ありがとうございます」

「……そうか、だが……いや、まあ、気を取り直そう。

もう少し付き合ってくれ、まだ見せたいものがある」


そう言って気分を切り替えるように頭を振り、ウィリスは立ち上がった。




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