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エレクの推測

「聖者様が、出て行ってしまわれたから……気になって。どうかなさいましたか」

「い、いえ。私はシノレを追ってきただけで……

皆様ももう、私が退出したとてお気になさらないと思いましたし……」

「そんなことはありません。

皆様心配しておられましたし、猊下も僕にご様子を窺ってくるようにと……。


……それでその……聖者様が猊下を、ワーレン家を選んで下さったこと、僕も嬉しく思います。

僭越なことですが……」


その言葉に聖者は硬直した。

あれは完全にシノレの独断で、聖者にはワーレン家を選ぶつもりなど無かったのだろうから当然だ。

何とも気不味そうに息を詰めるが、エルクはそんな様子には気づいていないようだった。

これ以上掘り下げられると不味そうなので、横槍を入れてみる。


「エルク様、少しお聞きしたいことがあるのですが……」

「敬語は止めて下さい。君に言われるのは何だかむず痒いです」

「そういうわけにも…………いや、分かった。分かったよ」


……似たようなことを、前にも言われた気がする

。確かにここまで来て取り繕っても仕方がないし、もう諦めることにした。


「……じゃあ、さっきのことだけど。

今一つ分からないんだけど、あそこでセヴレイルがいきなり掌を返したのは、どういうことだったの?

幾ら因縁の地が出てきたからって、それとこれとは別じゃない?」

「……それは……僕の、推測交じりになりますが……」


エルクは考えをまとめるように数度瞬きし、ゆっくりと語り出す。


「……レイグ様がリゼルド様を目の敵とし、敵対なさった。

そして猊下が、御自身の再従姉妹君とリゼルド様との縁談を持ちかけた。

リシカ様のことが気掛かりだからと仰って。

……リシカ様はワーレン家の御方です。

その子息相手にやり過ぎると、降嫁されたと言えど主家の令嬢を、引いてはワーレンの面目を汚しかねません。

猊下としてはリシカ様のお名前を出し、縁談という形で宥めることで、そうしたことに釘を差し、またレイグ様への貸しを作ることができます。


そして、それによりレイグ様は、イウディア様のお輿入れを認めるか、ご自身の係累を候補に挙げるかの二つに一つとなったのです。

他の使徒家のご令嬢を推挙することはできない……それは分かりますか?」


促され、少し考えてみる。答えはすぐに分かった。


「ああうん、分かる。できないよね、それは」


レイグは事あるごとにリゼルドのことを度し難い蛮人だと非難していた。

そして教主も縁談を持ちかけるという体で、それを暗に肯定するような挙動を見せた。


これで他の家の令嬢など推挙すれば、

「お前の家の娘など生贄同然に蛮人に嫁ぐのが相応だ」と言い放つも同然だ。

敢えて言うならリゼルドを追い落とし、別の当主をつけるという道もあるが、これは机上の空論だろう。


半年後には楽団との戦が控えているのだ。


そんな中で慌ただしい交代劇などしてヴェンリルが弱れば困るのは教団である。


「要は身内を人身御供にした損切りだよね。

……つまりその、ユリアとか言うのが一番気の毒だね。

あのリゼルド様の相手は、聖都の人には色々辛いんだろうし」


そこまで考えを話したところ、「その通りです」と頷きが返ってくる。


「けれど、猊下がああ仰った以上……

他に猊下のご不興、ひいてはセヴレイル家の弱体化を免れる術はなかったでしょう。


ましてあの家の方々は、特にそうした……

つまり、後々の禍根を残すようなことには慎重です。

それで辛酸を嘗めたことがおありですから」

「ああ、……まあ、そうだろうね」


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