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ロスフィークの動向

「――レイグ、リゼルド。君たちが啀み合う現状を、私は憂慮します」


シノレから目を離し、使徒家当主たちに向き直った教主は、穏やかに居住まいを正しながらそう言葉を継いだ。


「先代の死とともに教主を継いで、既に五年。

先代に未だ遠く及ばぬとはいえ、私なりのやり方で教団を導いていきたいと思います。

それには、やはり使徒家全ての力が必要です。

私の耳目となり手足となり、時に頭脳ともなってくれる、頼れる力が。

……地境付近の不穏な動向については、皆もそれぞれに報告されていることでしょう」


話しながら絶妙な間で、レイグに視線を落とす。

短くも長くもないその間の後、再び口を開いた。


「……我らの宿敵たる異教徒たちが、どうやら本格的に不穏な動きを見せているのです。

ロスフィークの動向については既に聞き及んでいますか?」

「相変わらず、異教徒どもの巣窟としてのさばっていると聞きますが。

何か変化でもあったのでしょうか?」

「ええ。つい先日ファラード家から報告が上がったのですが、どうやら楽団と結びつこうという向きがあるようです。

再び楽団と戦端を開いたならば、異教徒もこれに介入してくる可能性が出てきました。

そうですね、ソリス」


「……仰る通りです、猊下」


水を向けられ、ずっと伏し目がちに黙り込んでいたソリスが口を開く。

肩に掛かる暗赤色の髪を揺らし、淡々とした声で続く言葉を紡ぐ。


「仰せに従い、異教徒らを抑えるための根回しを進めてきました。

七日前にご報告しました通り、レドリアとの捕虜交換が完了し、またその知らせを受けたサフォリアが密約に同意しました。

教団の援助を受けロスフィークを攻撃すること、また向こう五年の間、不戦協定の元友邦として支え合おうと申しています」


「先方と内々に交渉するに当たって、ファラード家には随分助けて貰いましたね。

苦労をかけてしまいましたが、良くやってくれました」


「…………全ては猊下の御心のままに。

当然の務めを果たしたまででございます」


教主の労いに、ソリスが恬淡とそう返す。

だが周りはそれどころではない。

誰もが息を潜め、一点を窺い見る。


レイグの顔からは、完全に表情が消え去っていた。

のっぺりとした、虚ろなまでの無表情で教主を見つめる。

いや、見つめているのは教主でも誰でもなく、遠い過去の因縁だろうか。


サフォリア。初代セヴレイルが全てを奪われた因縁の土地であり、子孫であるセヴレイル家にとっては奪還の使命を負う場所である。


異様な緊張で凍りついた場の空気を解そうというように、ベルンフォード家当主ウィザールが苦笑を浮かべる。


「……現在捕らえている中で、サフォリアとの交渉に使えるような者がいたでしょうか。

そのような者について、私は耳にしておりませんが」

「それはそうですね、つい最近のことですから」

「……エレラフの捕虜ですか。

……つまり、エルク様が……」

「如何にもつい先日、我が弟が得た捕虜たちの中に、偶然レドリアと繋がる者がいたのです。

そしてレドリアにはサフォリアが身代金を払ってでも返還を求める捕虜がいた……思わぬ僥倖でしたね。

教団が直接ロスフィーク付近に攻め入るのは、地理的に困難を伴います。

騎士団東部の協力がどうしても必要なのですよ」


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