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天意を仰ぐ

「グレーデ。顔を上げて下さい」


やがて、主君の声がかけられる。

動かずにいると再び呼びかけで促される。


従って顔を上げると、思いがけず近くにその顔があった。

見上げた教主は笑顔を浮かべていたが、僅かに苦笑の気配があった。


「少し黙し過ぎましたね。

忠誠厚い君にそこまで言わせてしまうとは、事態は相当なものなのでしょう。

私が短慮でした。不安を覚えさせたこと、許して下さい」


「そのようなこと、あろうはずもございません。

全ては私の未熟によるものでございす」


一度上げた頭を、再び深々と下げ直す。

それにまた苦笑の気配が降り落ち、衣擦れとともに肩に手が置かれる。

辺りに広がる香木の香が更に強まった。


「事が危うくなる前にこうして知らせてくれること、心強く思いますよ。

これからもどうぞ私を支えて下さい。

……使徒家の諍いについては、確かに君の言う通りです。

これ以上の泥沼化は避けるべきでしょう」


そう声を掛けながらも、その視線は掲げられた天秤に向けられていた。

教主は今の状況を、このようなものだと思っている。

二つの皿には片や貴族が、片や傭兵が乗っている。双方ともに必要な力だ。

どちらも取り零さないよう、天秤が傾きすぎないよう、慎重に重さを加えてきた。


その成果が目指した場所に着地するかどうか。

それは勇者の決断にも懸かっている。

政治的な立ち回りとは別に、専らそれこそが、彼が最も知りたいことでもあった。


どうなることか。

こればかりは、蓋を開けないことには分からない。


「そろそろ、良いでしょう。

使徒家召集の手配を。

五日後に、一席設けるとしましょう」


彼は自らに足りないものを理解していた。

誰にとっても、既に賽は投げられていた。

後は天意を仰ぐだけだ。


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