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シノレの力

(…………?)


瞳の青の底から、何かが鳴り響いた気がした。

音の気配に似ていた。

聖者から何かが響いてくる。

音が、境界を超えて波紋を広げていくのに似ていた。

初めは静かだったシノレの力も、それと響き合うような感じになった。


やがて何かが、ざわりと蠢いて震えだす。

そこに聖者の一片が、入ってきたのが分かった。

異物を受けて反射的に拒否反応が出そうになるが、堪えて息を詰める。

膜を作るように覆い、ゆっくりと引き出していく。

それはいつもとは比較にならないほどあっさりと、そして大量に汲み上げられる。

身の内から出た「力」は、すぐに聖堂を覆い尽くすまでになった。

それは高く上り、天窓から外に出ていく。


聖堂を出た「自身」は更に大きく高く、上空を覆うように広がっていく。

感覚が広がって、様々なことを克明に感じる。


聖都を行き交う人々の顔が鮮明に見え、呼吸の気配すら感じ取れそうだった。


見覚えのあるものも幾つか見えた。

以前に会ったスーラという娘が、肩を縮めて歩いていくところ。

商店の主とウィリスが和やかに語らっているところ。

黒髪の美貌の男女が冷え切った目ですれ違うところ。

丸々太った赤毛の猫がのんびりと歩いているところ。


けれど突如、ぱちんと、泡が弾けるようにそれは失われた。


はっとする。

まず聖者が見えて、次に自分の手が見えたが、一瞬それが何か分からなかった。

自分が聖堂の中にいる、シノレであること。

急速に戻ってきた自分に自覚が追いつかず、少しぼうっとした。

聖者はそれに、気遣うように声を掛けた。


「お疲れ様でした、シノレ。

午前のところはこれで充分です。

……昼餉を摂りましょう」


聖者がそう言って手を離して、そこで我に返った。

体の重さを感じ、肺が空気に満たされる感覚が妙に久しく感じられた。

何だったのだろう。

これまでに力を使った時と似た感触だったが、まるで違う。


「……何。何だったの、これは……」

「…………貴方の、力を見つけるための道のりです。

全てが、そうなのです」


いつの間にか日は高く昇っていた。

聖者は目を閉じて、深く息をつく。

ずっと目が合い続けると思ったら、どうやら瞬きもシノレに合わせていたらしい。

言ってしまえば見つめ合っていただけであるのに、その顔には疲労が浮かんでいた。


「白昼夢でも見たみたい……」

「そうかもしれません。

ですが、やはり才能があると思いますよ。

一度であんなに上手くいくとは思っていませんでした」


そう呟いたシノレに、聖者は小さく笑って頷いた。

休憩するにあたって、聖堂を出て少し歩いた先の四阿で昼食を摂ることになった。

特に動いたわけでもないのに疲労していて、食事が矢鱈と美味しく染み渡る。

それを噛み締めながらも、先程までの奇妙な時間のことが頭の片隅に残っていた。


「雑念がないようにしろって言っていたけど、こんな感じで休憩しても良いの?

振り出しに戻ったりしない?」

「大丈夫です。

寧ろ休みがない方が消耗しますから。

それに、何かを考えない……というよりは、自分の中の力に集中して欲しいということです。

現実のことを気にしてしまうと、どうしても接続が揺らぎますから」


「確かに。

現実なんて目を開けていれば見えるけど、あっちは少し気が緩んだら駄目になるよね

……あんなに周囲のことを気にしない状態、初めてかも。

却って疲れるもんだね」

「焦ることはありません。

辛いようなら午後は休んでもいいですし……

寧ろこれは相当な突貫作業と言えるぐらいなので……

本来は数年かけたいですが、それだけの時間はきっと無いでしょうから」


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