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一触即発の状況

そもそもソリスは当主になどなる予定はなかった。

使徒家本家の嫡出と言っても所詮三男、父の後には兄二人が控えていたのである。

それが五年前の大騒動の最中、次兄が病で、父が自裁で、長兄が事故で立て続けに亡くなり一族中大混乱、この間僅か半月足らず。

あれよあれよという間に担ぎ出された彼にとっては、全てが青天の霹靂だった。

今でも悪い夢か何かではないかと毎日考える。


すったもんだの末欲しくもない家督が転がり込んできて、それからはまさに悪夢のような日々であった。

突如求められた当主の自覚に莫大な決裁、新体制の利権を求めて手ぐすね引く親類たちに、同じ使徒家との探り合い。

当時十歳、兄たちの影に隠れのんびり育てられてきた彼には荷が重すぎた。

それでも家を守るためと奮励努力して駆けずり回ること早五年。


「……それで、ニ家の方は?

何か動きはありそうか?」

「相変わらずのようでございますよ、当主様。

暫くはこのまま膠着するかと。

教徒の注意もそちらに釘付けですし、充分間に合うでしょう」

「それは何よりだがその前に胃が死ぬ!

決着がつく前にこっちが倒れる……!!」


ようやく、何とかそれも慣れてきて、周囲も落ち着いてきたかと思った矢先にこの騒動である。

先だっての大神殿での威嚇と睨み合いなど、思い出すだけで胃がぎりぎりと痛む。

あの時は恐怖のあまり一歩も動けなかった。

泡を噴いて気絶しそうになるのを堪えるのが精一杯だった。


それでも、教主の介入でそんなほとぼりも冷めて、決着に向けて沈静化していくのだろうと思った矢先に――。


「ヴェンリル家の方々が、遂に暴力沙汰寸前のことをしてしまいましたからねえ。

まあ大方リゼルド様の差し金あってのことでしょうが……」

「リゼルドの奴、あ、あいつは本当、昔っから……!!」


わなわなと体が震える。

つい先日のことだ。

ヴェンリル家の郎党がメラン家のデールの自宅へ押し入り、恐喝に及んだ。

ヴェンリル側の言い分としてはこの件は実行犯の独断専行で、動機は結婚前の子女を傷物にされたからとの発表だった。


今更過ぎて白々しい。

件の令嬢は何年も前から身分問わず、浮名をそこら中で流しているのだ。

それなのにここに来て、わざわざセヴレイル傘下の者を狙い撃ちする理由など火を見るより明らかだ。


それを切っ掛けに揉め事は激化する一方だ。

最近では学舎や神殿でも席の取り合いが生じたり、道を譲るの譲らないので揉めたり、事ある毎に互いに挑発し合い、諍いは増える一方だ。

その内の何件かは乱闘沙汰にまでなりかけた。

辛うじて怪我人が出る事態までは行っていないが、ヴェンリル側がそろそろ破裂寸前に来ている。

事あるごとに他人に絡み、暴力沙汰の前兆を見せているのだ。

分家筋同士の反目も激化し、聖都の治安は当然悪化し、確執はいよいよ後戻りできないところにまで差し掛かろうとしている。


「三年前も似たようなことはありましたが、これほどではなかったのですがね……

レイグ様もリゼルド様も、余程腹に据えかねたと見える」


そして、教主は。

是とも非とも言わず、沈黙している。


ソリスとしてはこうして愚痴を零しつつ、悟られないよう、弱みを握られないようやり過ごすのが精一杯である。

もう嫌だ、あいつら怖すぎ。


「ですが当主様。

当主とおなりになったからには、こうしたことはこの先何度でもあるでしょうし、他家の方々とのお付き合いも一生続けねばなりませんぞ」

「言わないでくれ!!

そんな過酷な現実を突きつけないでくれ!!」


世間の厳しさに堪らず、ソリスは悲鳴交じりの声を上げる。

思わず腕に力が入り、ロアンが凄まじい声を上げて威嚇したので慌てて緩める。

改めて猫を腕に抱き締め、すううううぅぅと息を吸い込む。

彼が再び立ち上がるには、暫しの休息と癒しが必要だった。



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