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司教

「ワーレン司教、入っても宜しいでしょうか」


「…………どうぞ、お入り下さい」


応えたのは、部屋の主ではなかった。

扉を薄く開いた教徒は、廊下に佇むシノレをじろじろと検分し、漸く扉が開く。


取り囲まれて点検され、水と食事の毒見をし、問題がないと確認してからやっと奥の間に通された。


正直驚いた。

一応見舞いに来たとは言え、水だけ受け取って追い払われるかと思っていた。

しかしエルクは寝台から起き上がり、上着だけかけた夜着姿とは言えきちんと椅子に座っていた。


「……昼は、ありがとうございました。

御礼を言っておきたくて。

それに、話も……」


それきり黙り込んでしまう。たっぷりと時間を掛けて、絞り出すように少年は呟いた。

「何故……あんな、ことが……」

やっとのようにそう呟いて、それきり絶句する。

やはり酷く衝撃を受けているらしい。

鳶色の目が戦慄いてシノレを見つめる。

答えを求められているのだと察した。


「……猊下のご裁決に異を唱えること、それはあってはならない罪であるからです」


人目がある以上、そう答えるしかない。


エレラフへの膺懲は教主の裁決、批判がましい言い分は何であれ許されない。

決定的な発言がなければ無かったことにもできただろうが、聞いてしまった以上、教団の面子にかけて処置を取らないわけにはいかない。

そして誰にとっても、あの事態は少年一人の暴走で済ませたかった。


教団としても逗留に使い、背後を預けることになる以上、今ここでスーバと揉めたくはない。

スーバは信心深い街、けれど一人だけ信心の足りない者がいた。

憐れなその子供は命を以て償った。

その筋書きで収めることが最も被害が少ない方法なのだ。


(早速犠牲が出た。

生贄の子供とか、一番嫌な字面だ)


顔を顰めたいのを堪え、何とか無表情を維持する。

エルクはそんなシノレに、縋るように言葉を発した。


「ですが、あのような子供を、何も殺さずとも。猊下は本当に――」

「……エルク様、畏れながらそれ以上は許されません」


控えていた付き人が口を挟む。

まだ若い青年は主人を気遣うようにしながらも、それでも断固とした口調で続けた。


「地上の代理人たる猊下のご意思を恙無く遂行すること、それが教徒の使命です。

猊下もエルク様を信じて、此度の任を託されたのですから。

そのご期待を裏切ってはなりません」


「……分かっています」


相変わらず蒼白な顔で、それでも声だけは気丈にそう答えた。


「……シノレ。

改めて、ありがとうございました。

これからよろしくお願いします」


そう言い、深く頭を下げる。

初対面からかれこれ一日越しで、シノレは漸くエルクとの挨拶を終えたのだった。


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