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レイグの本心

「大人げない仕打ちとお思いかもしれませんが、これは最大の譲歩なのですよ。

敵にけしかけるための猟犬に、人間の舞踏を仕込んでどうなりますか?

無理に着飾らせ立ち回らせるより、本来の居場所で戦わせる方が猟犬にとっても幸せであろうと。

……ですが私は思い直し、叙階を認め、彼が我らと同格になることを許しました。

それはただただ私が教団を思うが故です。

三年前のあの時、ヴェンリル自体潰してしまっても良かったほどなのですから」


楽団の人間とは生まれながらの悪鬼である。

つけあがらせれば碌なことがない。

教団の中枢を内から腐らせられるのは非常に困るのだ。

平時は隔離し必要時に使役する、ただそれだけでいい。

死体を漁る犬が人間と並び立てる道理はない。

身の程を知らせることは彼にとって正義ですらあった。


「人の作法、人の秩序。

リゼルド殿とは相容れないものであろと、最低限実践できない者を認めるわけにはいかないのです。

……このような俗事、聖者様のような尊き方がお気にかけるようなことではございません。

……決して悪いようには致しません。

どうかシノレのことは、私にお任せ頂けないでしょうか」


実際それは本心だった。

彼は心から聖者を敬っていた。

初めて聖者を目にした時、それは決したのだ。


天命を感じた。

神の意志と祝福が、確かに我が身に下されたと思った。

その実感が全身に行き渡り、かつてないほどに満たされた。


代々に渡って伝えられてきた先祖の無念。

憤激、怨嗟、焦燥感の入り混じった重石のような淀んだ思念。

それは彼の生まれを証し、生きる上での標となるものだった。

物心つかぬ内から常に共にあり、彼を支えると同時に苛んできたそれらが、聖者を目にしている間だけは和らぐ思いがする。

その時だけは、彼に注がれた神の愛を感じることができる。


それは本当だ。

その尊崇の裏にどのような思惑や策謀があるにしろ、それだけは嘘ではなかった。



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