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レイグとウィリス

「というわけで来た!!」

「何がというわけでだ馬鹿者!」


善は急げとそのまま押しかけると、相手は引き攣った顔で怒鳴りつけてきた。

その周りと、ウィリスの後方で使用人たちはおろおろした様子を見せた。

予定にない来訪に、どうして良いか戸惑っているのだろう。

しきりにレイグの顔色を窺っている。


「少し話があるから、執務の片手間にでも付き合ってくれ。

大して時間はかかるまい」

「…………お前は……」


それでも譲らず長椅子を陣取ると諦めたのか、ぶつぶつ言いながらも茶の支度を使用人に言いつける。

生まれた時からの付き合いで気心は知れている。

こういうところを含め、素をもっと曝け出せればもう少し人間関係も改善される気がするのだが。

まあこの従兄には酷だろうなとも思う。


「にしても、ここに来るまで閑散としていたな。

叔父上……長老殿は在宅でないのかな」

「先日の一件を受けて、さらなる根回しのため出かけられた。

これを機に一気に決めてしまおうという腹だろう。

こうなった以上、他の家も横槍を入れてくる可能性は低いのだし」

「相変わらずお元気なようだな。

近々また釣りにでも行きたいものだ」


長老の近況にウィリスはくすくすと笑う。

だが、楽しんでばかりもいられない。

運ばれてきた茶で喉を潤し、単刀直入に切り出す。


「この流れに合わせて聞くが。

エレミア嬢をエルク様の見合いに出したのはどうしてだ?

あの方ならばそれこそ、猊下とこそ話を進めたいだろうに」


この気位の高い従兄が、庶子の縁談に妹を出したというのは、ウィリスにとっても大いに意外であった。

レイグの気質からして、係累を庶出の者と婚姻させるなどありえないだろうに。

確かにエルクも希少な独身のワーレン一族ではある。

だが同じワーレンの母を持つ、生まれながらの嗣子である教主とは比べようもない。



それなのに、貴重な同母の令嬢をエルクと会わせたのはどうしてか。

最も気になっていたそれを、レイグに問いかける。

従兄は書類から目をあげないまま、「そのことか……」と呟く。


「前々から打診自体はあったのだ。

婚約というのではなく、顔合わせしてくれるだけでも良いと。

だが……エルク様ではこう言っては何だが不足だからな。

遠回しに断ってはいたのだが、先日この件を承知すれば、その分今後のことについて便宜を図ると言われたのだ」


「今後のこと。

つまりリゼルドとのあれやこれやか……

それで、エレミア嬢を行かせれば勝たせてやると言われて裏取引したということか?」

「人聞きの悪い。

あの思い上がりへの当然の応報だ。

それにしても妹を庶子如きにやる対価としては安すぎるし、報労については追々詰めていくつもりだったが。

まさかああいう流れになるとは思わなかった……

ようやく我が家の重大性をお分かり頂けたのだろう。

下賤な傭兵の裔とでは、どちらが信に足るかは明らかなのだから。

ここから先は規定事項、万に一つも負けはあるまいよ」

「…………………」


うーん何だろうこの不安な感じは。

ウィリスは微妙に顔を引き攣らせる。

今までにこいつがこういう物言いをした時、物事が良い方向に転がった例がないような…………。


「……まあ、万一引っくり返された暁には、飯でも奢って慰めてやるから。

そう落ち込むなよ」

「……話を聞いていたのかお前。

まあ、下手物や屋台飯でなければ行ってやる」



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