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聖者との邂逅

聖者が初めて公の場に出てきた時のことは、今でもよく覚えている。

その時、彼はレイグの隣にいたからだ。


ウィリス自身も驚いた。

天の慈悲、真善美が人の形を得たとしか言いようのないその麗姿に。

初めて会ったその時から彼は聖者が好きだ。

美しいから好きだ。

ベルンフォードの一族は、代々美しいものをこそ尊び愛する。

そのために金を惜しまないし、異端視される危険すらも顧みない。

口さがない者たちの中では、ベルンフォードの業病とも言われるそれだ。


この世界では、実用的なものこそが尊ばれる。

その中にあって文化・芸術を熱心に保護する一族の気質は異端とも言えた。

代々蓄積した資産を擲って初期の教団を支えた実績から、主立っては批難されないだけだ。


年若いウィリスも、何度も言われた覚えがある。

私財を擲ってまでそんな役に立たないものを後生大事にするより、すべきことがあるのではないかと。

美しいものなどこの激動の時代にあって、何の意味も力もないのだと。


あの聖者の存在は、そんな言い草を一刀に切り捨ててしまった。


「あの時は爽快だったなあ……」


笑みが浮かぶ。

だがそれ以上に従兄はきっと、虚脱し、打ち震え、救われてしまった。


「あの頃のレイグは荒んで、大分追い込まれていましたから。

生まれた家が家だ、無理もない。

特に成人から継承前は苦労のし通しだったでしょう」


今も大概だが、昔に比べれば格段に丸くなったと周囲の者は口を揃える。

その一因に聖者の存在があったとウィリスは確信している。

あの時のレイグには聖者の姿が、特別な意味を以て見えてしまったのだろう。

不安定でいて特権意識の塊のような精神が示す反応は、歪んだものにならざるを得なかった。


聖者の出現は奇跡であり、贖罪を続ける教徒に天が与えた恩寵。

先代教主の唱えたそれは今や教徒の常識だ。

それを更に、自身が、歴代当主の誰でもなく自分が、天に選ばれたことの証左だとそう捉えた。

それ故に彼は聖者を崇敬する。

そういうことなのだろうと、彼は分析していた。

実際それから、レイグの情緒と挙動は目に見えて落ち着いた。

未だに色々と問題はあるものの、それでも確固たる当主として一門と教徒を率いている。


「何にせよ、レイグ殿がもう少し落ち着いて下さればとても頼もしいのだが。

一々リゼルド殿に目くじらを立てられてはこちらも気疲れする」


思索を読み取ったように父にそう言われ、苦笑せざるを得なかった。


「……まあ、こういうことは時に任せるしかない場合もあろう。

我が家としては巻き添えを食わないようにしたいものだ。

ウィリス、お前もリゼルド殿との付き合いは慎重にな」


「分かっています。

しかし……監視どうこうはともかく、友人として訪ねるのなら問題はないはずでしょう。

…………それに、」


一度切って、ウィリスは瞬いた。

これまでの全ては教主が主導しているのだろうし、そうそう滅多なことにならないだろうと、頭では思う。

思うのだが、自分でも何がこうも引っ掛かるのか分からない。

一連の出来事に、違和感とも違う、何とも言えない何かを感じる。


「幾つか気になることもあります。

レイグにも会っておきたいですね」



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