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使徒家の対立

ややあって、足音が近づいてくる。いつもより早い歩調のそれは扉の前で止まり、一気に開け放った。


「全く、よりにもよってこの大神殿でなんということを!

どちらも猊下のご威光を何と心得るのか」


戻ってきた教育係はやはりと言うべきか、非常に不機嫌そうで疲れた様子だった。


「これ以上拗れるのなら、いっそ我が家がお前を引き受けるのもありだとは思うがな。

だが……猊下の御心が分からぬことには、我らも身動きができん」

「……やはり、対立は日に日に悪化しているのですか?」

「悪化どころか。

祝賀には呼ばれぬ、開催しても人が来ず、祝儀すら送り返されている。

市街ではヴェンリル傘下の教徒に、公然と非売や排斥まで行う始末。

シュデースとファラードが援助しているため、完全な孤立にまでは陥っていないというだけだ」


それに少し考え、「師範、聞いてもいいですか」と問いかける。

無言で視線を返され、考えながら問いかけた。


「三年前の事情を聞いた時、双方ともに他からの支持を受けなかったと聞きました。

それが僕には少し腑に落ちないのです。

武力と外交として役割が分かれており、そして外交を担う者が殲滅は無用と判断した以上、ロンドのことやはりヴェンリル側の暴走なのでは?」


「普通の抗争であればそう判断されただろうな。

だが肝要なのは、あれが何がしかの益を欲してのことではなく、先代猊下の弔い合戦であったということだ。

尋常の争いならばいざ知らず、猊下を殺されたけじめをつけねばならなかった以上、ヴェンリルの暴挙が寧ろ正しい。

先の猊下のお命は何に替えられるものでもなく……些細な利益のために酌量したとあっては楽団に侮られ、教団の内も揺らぎかねない。

地上の代理人たる聖なる猊下への尊崇こそが教徒を纏め上げ、教団を支えているものであるのだから」


教育係の答えを咀嚼するため、少し考え込む。

その後、続けて更に問を重ねた。


「それでは、この対立はどこに向かうのでしょう。

使徒家同士の対立は下の者たちにも累が及ぶ以上、他の使徒家も迂闊に口を挟めないでしょう。

彼らを制することができるのは、猊下しかいらっしゃらないのでは?」


「その通り。

本来ならば教団の首長たる猊下が、双方の言い分を勘案し、最終判断を下す局面だろう。

使徒家同士の対立を収拾できるのは猊下だけだ。

何らかの形でどちらかの支持を表明して下されば、それでほぼ片がつく」

「しかし、何も仰らないのですよね」


事実を言っただけなのに睨まれた。

不信感が滲み出てしまったのかも知れない。


「…………まあ、お前が気にすることではない。

時期が来れば猊下から内密のお達しがあろうし、それに従えばいいだけだ。

余計なことは考えるな」


信じて待てとは、何とも曖昧だ。

とにかくますます和解の道が遠のいたことだけははっきりしている。

今日の経緯は即座に聖都中に広まることだろう。

シノレはため息を付きたくなった。



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