僕が見つめた星
学校に行く電車の中で見る、景色はあいも変わらず滑稽で代わり映えのない世界を映していた。ずっと同じ時間、同じ電車、同じ景色、同じ生活……毎日が同じことの繰り返し。ただ、それだけだった。
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5月下旬、進級して中2としての生活も慣れてきた頃、去年と同じようにまた、ドンヨリとした重いものが僕の心のなかに芽生えていた。武藤楓真三上中学校の2年生。ずっと毎日の生活が同じ単純作業の繰り返しと思えるほどに、この生活に飽き飽きしていた。毎朝ずっと電車の中で、悪党が現れて僕が皆のことを守って英雄になるなんて馬鹿げた夢ばかりを見ている。今日だってそうだ。そんな事を考えているけど、そんな期待とは裏腹に人すらおらず車内は僕しかいなかった。思わずひっそりと呟いた。
「変わりたいな」
と。誰もいないはずなのに誰かに聞かれたような羞恥心を感じ思わず顔が赤くなってしまう。ここには誰もいないんだからと、自分で自分を落ち着かせようとしている。
「変わりたいの?武藤楓真くん?」
え、何処からか声が聞こえてきた。視線を上げた先には一人の女の子が立っていた。このことが聞かれていたという羞恥心よりも先に、この子が誰でいつからいたのかの方がよっぽど気になってしまった。
「ふふっ、私はね、スピカって言うの」
と、彼女……スピカは答える。真っ白な肌に青い目、青いワンピースを着た少女、スピカ。
「私はね、君の願いを叶えに来たんだ。君は変わりたいんで
しょ?武藤楓真くん?」
とスピカは僕の気持ちを見透かしたようにして言う。
「確かに変わりたいと願ったよ」
僕は動揺を隠すように強気で言った。
「知ってるよ?だから、君の願いを叶えに来たんだから」
スピカは自信ありげに微笑んだ。そんなことがある訳ないと僕は
「じゃあ、どうやって叶えに来たのさ?」
と語気を強めて言った。それでも、自信ありげに
「私の話を聞けばわかるんじゃない?」
といった。
「私はね、何万年ものあいだ地球に住む人間のことを見守ってきたの。何回もこうやって人の前に現れてはその人の願いを叶えてきた。あ、流石に宝くじ当たりたいとかは無理だけどね?そうやって人々のことをサポートしてた。今回はそれが君に巡ってきたんだ!幸運だね✨そこで君に伝えたいことがあるんだ それはね、下ばかり見つめていても新しいものは見つけられないってこと。いつまでも下を見つめてるんじゃなくて、上を見上げることも大事だよって言う意味。だから、上を見てみて、ほら!」
彼女が上を見るように言ってきたので思わず上を見上げると、そこには見慣れた電車の天井……ではなく、あたり一面の星空が広がっていた。上下左右どこを見ても星。どうなってるのか気になって下を思わず見ると、
「下は見ないってさっき言ったじゃん!」
とスピカから面白半分、呆れ半分で返事が来た。そこからまた、僕は上を見上げるとスピカは
「綺麗……でしょ?いつだって私達の上にはが"宇宙"がある。"星空"があるんだから」
スピカは得意げに話す。僕は思わず、
「上を…見上げるのも……いいのかも」
と小さく呟くとスピカはでしょ?とドヤ顔でこっちを見てくる。
「つまりね、下ばっかり見てるんじゃなくて、上を見上げて新しいものに向かって手を伸ばしてみるんだよ?下にあるものは簡単に取れるけど、上にあるものはそう簡単に取れないんだから何回も挑戦しなくちゃ」
僕は頷く。
「でもね、いつかは消えてしまう。だから消える前に掴んでね。わかった?なら君はもう大丈夫。変われたんだよ。もうそろそろ行かなくちゃ、バイバイ、武藤楓真くん」
スピカはこっちに向かって大きく手を振った。それに対して僕も手を振り返す。僕もスピカに向かって
「バイバイ、スピカまた会おうね」
と言うと彼女はこちらを振り返って寂しそうに微笑んだ。
目が覚めるといつもと同じ電車の同じ景色が目に入ってきた。さっきのは夢だったのか?と考えている間に僕が降りる駅についてしまった。いつもより、軽やかな足取りで駅を出ると澄み切った青空が広がっていた。僕はにやりと笑うと宇宙に向かってこういった。
「待ってて、スピカ。今度は僕から会いに行くから」
にやりと上を見上げる。この声はスピカに届いただろうか。でも、空のあたりがキラリと一つ光った。それを見ると僕は学校に向かって走り出した。