王太子_10
侯爵家と微かな軋轢を感じながらも
内心はどうあれ、古き一族の一角として粛々と侯爵家が務めてくれることに
父は申し訳なさと有り難さにいつも心が潰れる思いを抱えていた
だから、母がこれ以上余計なことをしないように
きつく忠告したし、監視もつけた
そして、子が授かるかもしれない、という眉唾な実験にも付き合った
それで母の心が穏やかになるならいいだろう、と
実験というのは人工妊娠というらしく
詳しくは省かれたが、父の魔力を叔父の魔力で緩めた状態の子種を
母の胎で育てるらしい
子の魔力は父によるか、叔父によるかは運次第で
血縁判定や魔力判定がどうでるか微妙なところだったが
どちらにしろ、叔父の子を一人もらい受けるつもりだったのもあり
その実験に付き合うことにしたらしい
もちろん、生まれた子がどうあれ己の子とするが
それすなわち、次期王となるわけではない、と母にきつく言い置いて
母は知らぬが、称号を授からねば、決して次代足りえないのだから当たり前だ
そして、称号を授かれるのは直系と直系から生まれた子までと決まっている
それ以降は決して、称号を授かる王家の子は生まれない
まあ、長い年月、様々な工作によって
当時の王の子以外が継いだという歴史は記されていない
だから、母からすれば、詭弁程度に捉えていたかもしれない
でも、父は本気でまだ生まれていなかった次代が称号を持っていなかったら
当時、生まれていた称号持ちの叔父の子を
叔父の子のまま、次期国王として育てるつもりだった
どちらかといえば、それを飲ませるために
実験に付き合ったのだろうと今の次代ならわかる
幸いなことに、次代は称号持ちで、魔力も父に似ていた
親子判定で95以上が父子とされるのを、95ギリギリではあるが
94以下だと叔父の子の可能性も出てくるらしい
まあ、それはいい
母の暴走がこれで済んだなら、たぶん、きっと
古き一族として王家に仕えてくれた侯爵家なら
痛みと汚濁を飲み込んで、きっと今も王家に膝をついてくれていただろう
彼らの忠誠はそれほど深く、気高く、ありがたいものだったと
失った今だから、わかる。




