王太子_9
侯爵もまた、それが当然であるように
パートナーであるはじめの婚約者と社交界デビューを済ませ
そして、爵位を受け継ぐまで社交家から離れるつもりだったはずだ
だが、その時、気づいてしまったのだ
侯爵のパートナーであるはじめの婚約者が
とんでもなく、父の魔力と相性がいいことに……
普通に魔力相性がいいものというのは
魔力を重ね合わせた時、反発が少ないこと、又は、起こらないことをいう
だが、とんでもなく相性がいいと
放出してなくとも、魔力が引き合うようにかすかに渦巻くのだ
当然、滅多に起こる現象ではない
だが、それは起こった
祝福を授けるのに
父がパートナーの頭にそっと手を近づけた時に……
起こってしまった、のだ
でも、パートナーの魔力が少なかったことが幸いし
具現化するほどではなく、気づいたのは
父とパートナー、そして、パートナーを支えていた侯爵だけだった
いや、それだけだと父は思っていたらしい
そう、半歩後ろにいた母もまた、それに気づいてしまったらしい
その頃、突然の即位と多忙で時間のとれなかったこともあったし
次代は生まれていない
それでも、父は己の魔力の関係で次代は諦めると公言し
側妃は持たない、と宣言していた
だから、魔力相性がどうだろうと
まして、婚約者もいる、7つも下の令嬢をどうしようとも考えてなかった
それに、魔力相性が良ければ、子が必ず生まれるというわけではない
何より、パートナーは極普通の、中堅よりやや勢力は弱い伯爵家で
魔力もそれ相応しかなかった
どう考えても、王家の妃に足りえないし、そんなことをすれば
曾祖父の二の舞になるのは目に見えている
その上、渦巻く魔力を見た途端に
己の腕の中にパートナーを仕舞い込んで、此方を威嚇するように
魔力を尖らせる侯爵を敵に回すのは、全くもって割に合わない
そう、父は考えたそうだ
だから、何か分からないが、突然、魔力で国王を威嚇する侯爵に
不敬と怒る近衛たちを
若さゆえ、緊張したのだろうと父は鷹揚に流し、誤魔化した
それで、終わったことだと考えていた
だが、事態は予想外にひどい状態になってから判明した
そう、母が王妃という強権を使って
侯爵のはじめの婚約者を獣国に売り払ってしまったのだ
父が気づいたときには国としての裁可が済んでいて
どうしたって止めようがなかった
もし、父がはじめの婚約者のことを誰かに話していれば
気にかけて、余計な動きを知らせてくれたかもしれない
もし、侯爵家が社交界で発言権を持っていれば
古き一族の一角の、次代の婚約者と定めたものが
売り払われるように国外に出されるという、とんでもない動きに
誰かが父に警告を与えてくれたかもしれない
でも、すべては今さらになってから事態が判明したのだ
事態が判明した時、もちろん父は烈火のごとく怒った
そんな父に母は子が欲しいと泣きついて
子ができないことで侮蔑を受けている自分は被害者だと
子が持てないのは諦めたが、
自分が諦めるなら、決して貴方の子を誰にも産ませはしないと
狂ったように言い返したらしい
結局、はじめの婚約者の実家が許可し、外相である王妃の実家が後ろ盾となって
国として決めてしまったその最低な縁組を
その当時の父に止めることはどうしてもできなかった
父は、渦巻く魔力を見たときに見せた侯爵の威嚇を
何度も、何度も繰り返し、今でも思い出すそうだ。




