王太子_2
次代が見た弟はまだ、幼児と言って差し支えない幼さなのに
人形のようにまるで、感情ない顔でたった一人で庭に座っていた
次代が同じ年の頃は発症前だったので
乳母や大勢の侍女や傍仕えに見守られ、日々、活発に遊びまわり
時折、訪れる両親に可愛がられ、その幸福な日々が不変だと疑っていなかった
それは発症と共に失われるが
それでも、今、この瞬間も、その時と変わらず
次代に多くの人が心を割いてくれているのは疑っていない
だというのに
弟は仕立てこそきちんとした服を着せられていたが
まるで庭で遊ぶ、いや、自発的に何かするということすら分からないという風情で
ただ、じっと何も映していない瞳でぼんやりどこかを見ている
いや、きっと、弟は何も見ていない
ただ、息をしていただけなのだ、と後から思い知った
動けない身体を這うように弟の元へ動かしたのは
多分、この後宮で己と唯一同じ髪色を持つ幼子への親愛とどうしょうもない庇護欲
何より
どうして、己の弟がこのような寂しい場所で放置されているのかという
体から突き抜けるような怒り
そうして、辿り着いた弟は
明らかに、可笑しな動作で傍に寄ってきた存在に逃げることもなく
何も映していないガラス玉のような瞳を向けた
突然、現れた不審者に怯える様子も
同じ髪色を持つ意味さえ理解していない様子の弟が
どうしょうもなく悲しくて、次代は思わず、弟をひしっと抱き締めた
その時、初めて、弟はビクリッと体を動かし、反応をみせた。




