侯爵令嬢_6
少女は思った
表情も作れない、上手く話すこともできない自分が
諍いを止めようとなんて、高望みだったのだ
そもそも、諍いの場に現れたとて
言葉を上手く操ることも出来ないのだから仲裁などできなかった
ただ、やめて、というだけで何の役にも立たなかったから
男爵令嬢は役立たずの少女を厭い、
少女が嫌がらせをする者たちと同一視されるのを否定しなかったのだろう
いや、心の中で男爵令嬢を厭う気持ちが消せなかったから
そんな少女に気づいて、男爵令嬢は兄の叱責を止めなかったのだろう
仕方がない、仕方のないことだ
兄以外から、ずっと厭われて生きてきた
兄以外に少女を理解しようとしてくれた者はただの一人もいない
役立たずで、邪魔な存在というのは
何をしようがしまいが、厭われると少女は知っている
だから、仕方がない
兄にとって、もう、少女は邪魔になった
……………………………なってしまった
それなら、仕方がない
ずっと、端でもいいから、兄の傍に在りたいと願った
兄の傍以外で、そこに在りたいと少女は一度も願ったことはない
兄がいなかった幼少期は
ただ消えると言うことを知らなかっただけ
要らない存在の消し方をその時の少女は知らなかった
だが、兄に人にしてもらって、少女はあらゆることを知った
だから、もう、知っている
最愛で、唯一の庇護者である兄にすら厭われるならば
もう、要らない
少女はもう、少女自身を要らないモノとして捨てることにした
さようなら、兄さま
どうか、邪魔モノは消えるから、ちゃんと消すから
どうか、幸せに
それでも、いつか、そういつか
いつか、あの子がいた、と思い出してくれる日があったら、
それで、少女は幸せだ
最期に少女はそう願って、己の存在を己自身で消し去った。