侯爵当主_10
調査から数年後、ようやく情報と証拠が固まり
恥知らずな妻とその実家への制裁が始まった
なぜ、恥知らずな妻が契約を放棄する危険を犯したのかというと
それは実に恥知らずな妻らしい理由だった
そう、間男との子を身籠ったのだ
貴族の間では母体の安全のため
そして、生まれた子どもの魔力調整をするために
出産後、最短でも一年半は母体を休ませるのが通例だ
もちろん、それは侯爵家でも守られていた
でも、長男の後、数年もの間
行為は続けているのに、彼女は身籠らなかった
侯爵当主はそういうこともあるだろう、と鷹揚に構えていたが
恥知らずな妻はそうじゃない
彼女はさっさと3人産んで
侯爵家から解放され、真に愛する人と結ばれたかったのだ
だから、四六時中行為を求められた
うんざりはした
でも、それも責務と受け入れた
ようやく、身籠った長女
お互い、解放されたとホッとしたのが本音だろう
長女を無事産んで
恥知らずな妻は解放感に酔いしれていた
数年の屈辱も大きかったのだろう
だから、間男と関係を持った
それまで、流石に婚姻関係のあるうちは、と
体を合わせる一線だけは守っていたのに
彼らはその一線を越えてしまった
一度超えてしまえば、愛し合う者同士
我慢できなかったのだろう
彼らは溺れるようにその行為を繰り返し
子ができたのは必然だった
せめて、そこで子を諦めれば救いようがあるものの
何年も子ができなかったトラウマが恥知らずな妻を襲った
そう、愛する者との子を諦められなかった
だから、奇跡的な巡り合わせで
彼らにとって都合よく
親子鑑定を求め、現れた付属品の後妻を理由に
生まれて半年にも満たない我が子を捨てて
恥知らずな妻は実家へ逃げ帰ったのだ
そして、長女の乳母を探さなかったのは
探せなかったらしい
妊娠時期が早すぎたせいで
酷い悪阻と子が流れる危険があったらしく
恥知らずな妻は手紙を受け取った当初、身動きが取れなかった
流石に誰も派遣しないのは怪しまれると
適当に魔力が近しい者を送りこみはしたが
生母との橋渡しもなく、魔力を赤子が受け取るわけもなく
結果、長女は見捨てられた
というのが、真相らしい
恥知らずな妻は隠れて産んだ子を泣く泣く兄の子として届け
姪として可愛がるしかない絶望に
離婚後半年が経過し、間男と結婚が許されると
すぐにまた孕み、男児を産んだらしい
そして、もちろん
(間に隠し子を産んでいるので)妊娠時期が早すぎて、また
酷い悪阻と子が流れる危険で一年動けなくなったらしい
ようやく、己の思う幸せを手に入れ
捨て置いた長女を思い出したのは長女が3歳になった時
その頃にはもう既に付属品の後妻が家の権限を握っていて
長女との接触が難しかったらしい
で、あっさり長女を諦めた
侯爵当主同様、どうでもよかったのだろう
本当に、長女にとって
己らの間に生まれたことこそ、不幸と分かる。




