侯爵当主_8
事態が判明したのは長男が10歳の時
生まれてからずっと放置された長女が魔力を暴発させたのだ
恥知らずな妻は結局、乳母を用意せず、放置し
付属品の後妻は継子憎さに虐待を繰り返した
その上、侯爵当主の傍仕えまで買収されていて
長男と長女に関する、月に一度の報告書はでたらめだらけだった
恥知らずな妻の実家を調べ始めた頃
本格的に体調を崩した父が領地へ帰り
守護騎士として勤めていた侯爵当主の補佐が一切できなくなった
そのせいで、侯爵当主は
父の補佐があった時は半月程昏睡し、数か月寝込む程度だったのに
1か月は優に昏睡状態が続き、
最近では何か月もベッドの上で執務をとることも多い
それでも、半年に一度の魔力補填も
年に一度の聖物の儀式も侯爵当主は一人で務めた
もし、長男を補佐に任命すれば
きっと、もっと楽になるだろう
10になった長男なら
侯爵当主が過去そうであったように
立派に補佐を務めると分かっている
今、魔道具を使って、補佐を務めている聖騎士たちは
そもそも、聖物を作る、その手順が分かっていない
聖物は魔力の塊だが
そも、魔力というのは勝手に固まる物ではない
例えば、氷を魔力で出すことはできる
でも、それは一定時間たてば、消えるモノだ
そして、聖物を作る時に氷を出すわけじゃない
氷の魔力を出す、のだ
そして、氷の魔力を物質化させるのだ
それは途方もない魔力量と繊細で精密な魔力操作が必要になる
ましてや、
光と氷という別属性のモノが混じり合った、他者同志の魔力を
固めるというのはとても難しいことだ
似たもので言えば、魔石だが
魔石は特殊で
あれは魔物たちの心臓が石化したものだ
要は、生命の塊なのだ
それを疑似的に聖物として人の手が生み出すのだから
当然、ただ魔力を放出してできるモノではない
そんなことすら彼らは気づかない
それを補助するための魔道具なのだが、
ただ魔力を放出して
今現在作り上げた魔道具でできるのは
あの閉鎖空間と魔道具を使っても
今の半分にも満たない聖物となるだろう
いや、もしかしたら
塊にならず、ただ、霧散するかもしれない
そうならないように、そして
無駄な魔力消費をせずに作り出すには
初めに魔力の核を作る必要がある
この核は元々、聖者たちが作っていたのだが
時代を経る中、なぜか守護騎士である侯爵家に
その作業は当たり前のように押し付けられてきた
今では、聖者たちですら、ただ魔力を放出するだけで
聖物というのは勝手に固まるものだと思っている者がほとんどだ
何度もそのことで神殿に忠言したが
聞き届けられず、侯爵家は諦めてしまった
そんな訳で、毎回、核を生成するまで
己だけの魔力で纏めなければならない侯爵当主の負担は
限りなく大きい
核の生成は聖物を作り上げる中でも一番
膨大で、濃縮な魔力と
とてつもない繊細な魔力操作が必要となる
侯爵家の者とは言え、
同じ核を作る作業をしてくれる侯爵家の補佐がなければ
難しい、と言われるほど過酷な作業だ
父が補佐できない今、
長男を補佐に任命しろ、と父を含め皆が言う
でも、侯爵当主はそれに抗い続けた
そして、抗うために
親類の手を借りず、己一人で守護騎士を務めていた。




