侯爵当主_7
だから、侯爵当主は命じた
徹底的に
恥知らずな妻とその実家、そして、間男を調べ上げろと
契約を放り出すことの危険性は
アレらだって重々承知していたはず
だから、一応、
アレも間男との逢瀬を忍んでいたのだ
ならば、契約を放り出す何かがあるはずだ
そう、侯爵当主は確信していた
もし、平身低頭、許しを請うならば
契約を変更してやることだって
幼子を得た今の侯爵当主ならば、考えた
なぜなら、
恥知らずな妻など侯爵当主にとって鼻からどうでもよい存在だから
そして、奇しくも
家存続に必要な3人の子はできた
ならば、追い詰める意味もない
恥知らずな妻の実家に払った金など
魔法陣の発明者で、魔道具作成の権威である侯爵家にとって
はした金に過ぎない
今の侯爵家は
魔物と雪に襲われ、食うものにも困り
我が子が餓死するのを見ているしかなかった頃とは違い
中央に権力がなくとも、その魔力で領地を守り
その才で領地を豊かに変え、
万が一、国が亡ぼうとも
二度と領地を何者にも侵されることがないまでに
育て上げているのだ
だから、どうでも良かった
だって、今の侯爵当主には
最上の婚約者の生まれ変わりが傍にいるのだから
だから、言いがかりをつけて
実家へ勝手に帰った恥知らずな妻を見逃そうとさえ思っていたのに
地雷を踏んだのは、愚か物たちだ
今度こそ、徹底的にツブしてやる
侯爵当主はその牙を初めて剥いた
そんな時、長女の魔力が膨大過ぎて
集めていた乳母に合わないと聞いて
恥知らずな妻に最低限の勤めを果たすように手紙を出した
そして、恥知らずな妻が勤めを果たすまでの短時間は
可哀そうだが、アンジュの実で凌ぐように指示した
指示した後、長女の事は忘れた
酷い親だと思う
でも、侯爵当主にとって
残滓となっても残っていた王家への忠義の欠片で抑えていたソレを
解き放つことを決めて、忙しかったし
ようやく手元に帰ってきた最上の婚約者を育て上げることだけが
生きる意味だった
元々、幼い頃から傍で育つのを見守っていた長男と違い
生後まもなく、この騒動が起きたせいで時間がとれず
交流がなかった長女への愛情が育たなかったのもある
我が子であることは承知しているが
守るべき存在として
侯爵当主は未だに長女を認識できていなかった
それでも
流石に、己の生んだ子を見捨てることまではしない、と信じていた
令嬢として生まれたのなら、子を産み、育てることは
彼女たちの義務だ
己の妻としての役目を放棄しても
産んだ子を育てることを放棄すれば、
それは貴族令嬢として生まれた者の恥となる
知られれば、社交界に出られない、それほどの恥
だから、大丈夫だと思っていた
でも、見誤った。




