侯爵当主_5
今は引退した父の魔力は守護騎士としてはやや少ない
そのため、ずっと補佐役を務めた叔父の一人が病に倒れた時
侯爵当主はまだ7つだったが
魔道具を使い、守護騎士の補佐に駆り出された
魔道具は氷の魔力の適正があれば
魔力を注ぐと、自動で氷の魔力を基礎とし
光の魔力を混ぜ合わせ、集約してくれるモノだ
その魔道具が開発されたことで
繊細な魔力操作ができずとも、氷の適正さえあれば
守護騎士の補佐を務めることができるようになった
代々守護騎士を務める中で
どうしても、魔力が足りなかったり
魔力操作が上達しなかったりしたことがあった
それを補うため、先祖は領地の瘴気浄化に使われている
今は廃れた法術によって作られた、
法陣と呼ばれるソレを研究し、魔法陣を生み出した
そして、魔法陣の機能を千万年の間に高めていき
様々な魔道具を作っていった
もちろん、全ては守護騎士を務め続けるため、だ
まだ先祖たちが目指した理想の形とは言えないが
侯爵当主が幼い頃にできていたソレは
一応、実用に耐えうるモノにはなっている
そして、侯爵当主が守護騎士になる頃には
氷の魔力以外の魔力を注いでも、氷の魔力に変換する機能もついた
変換率は確かにまだまだといえるが、それにより
神殿に努める聖騎士も補佐として聖物の儀式に立ち会えるようになった
だが、問題もある
魔力量、魔力操作の不足を補うために生み出されたその魔道具は
対象者の魔力を問答無用に限界まで絞りとるのだ
人によって違う魔力量
その全量が不明なモノを何割残す等と言う機能を付けるのは
そもそも難しい
確かに、それが難題だからという理由もあるが
一番の理由はその点を改良するぐらいなら
別の問題に対処することに重点を置いて開発しているともいえる
でも、そのせいで
まだ魔臓器が成長しきってない幼年期にその魔道具を使うと
魔臓器が安定した後も魔力の出力異常が起き
魔力操作が難しくなる
何より、幼年期の魔力枯渇は死を招くことさえある
ちなみに
侯爵当主も7つという幼少からその魔道具を使い続けたため
魔力が大体半分ほど減ってくると
良ければ、眩暈や吐き気を感じ、悪ければ、意識を失う
そのために、守護騎士を務める時は
強制的に覚醒する秘薬を飲んでから、儀式に挑んでいる
まあ、秘薬の副作用も中々に馬鹿にできないのだが
それでも、飲むしかない
結果、聖物の儀式の後はいつも大体
昏睡状態になり、その後、少なくない期間
自力で体を持ち上げることさえできずベッドの住人となる
そんな侯爵当主という前例を知っていても
侯爵当主とは違い、侯爵家の誇りを未だに抱く父は
侯爵当主がいなくなれば
幼い長男を当たり前のように守護騎士の補佐として任命し、
魔道具を使うように命じるだろう
かつて、7つになったばかりの侯爵当主にそれを命じたように……
その時の侯爵当主は
守護騎士として生きる侯爵家の誇りも
建国王に連なる王家への敬愛も持っていたから
勤めを果たすことに何の反発もなかった
でも、今は違う
何もしてやれない、役立たずな親だが
こんな風に、誇りを踏みにじり、敬愛に胡坐をかき
こちらを使い捨てようとするそんな者たちのために
長男の命や将来の生活が脅かされる
そんな事、親として、決して、決して容認できない
侯爵当主はそう思った
だから、長男がかつての侯爵当主のように
過去の因習とも言える国への盲愛と
守護騎士というありもしない誇りに
その目を曇らせることないように
因習を押し付ける亡者を
王都の屋敷から領地に戻し、排除した
その上で
長男が己の目で、その意思で
侯爵家を、そして、国を判断できるようになるまで
時間を稼いでやる必要がある
そして、聡明な長男が因習に囚われず
己の将来を掴み取るまで
その間だけ、侯爵当主はこの世に留まることにしたのだ
それが己にしてやれる唯一の親としての加護であり、
最初で最期の贈り物だと侯爵当主は思った。




