侯爵当主_3
そうして、侯爵家は代々多大なる犠牲を払いながら
守護騎士を務めるために必要な膨大な魔力量とスキルを
受け継いできた
それが侯爵家に生きる者の誇りだった
だが、時代を経ると
他家から来た者にはその誇りは伝わらなくなっていく
もちろん、契約で家の存続のため、
3人はなるべく産んでもらうのだが、
その関係は最悪となることも多かった
そんな中、幸いなことに
侯爵当主には魔力量、相性共に至適の上
他家の令嬢なのに、侯爵家の生き様に共感してくれる
そんな、最上と言える相手を
侯爵当主は婚約者として持てた
侯爵当主と最上の婚約者は10の頃から
お互いを思い合い、仲睦まじく交流を重ねた
皆が次代の侯爵家は安泰と思っていた
それが覆ったのは揃って学園生活を楽しんでいた時だった
15で共に社交界デビューした最上の婚約者が
外交で訪れていた獣王国の公爵家の嫡男に見初められ、奪われたのだ
もちろん、侯爵家は強く、強く反発した
侯爵当主との関係が良好だったのももちろんあるが
獣王国は基本、一夫多妻なのだ
最上の婚約者を見初めた公爵家の嫡男も既にハーレムを持っており
正妻処か、ハーレムの一員として召し上げられるだけだ
公爵家の嫡男とはいえ、そんな相手が
伯爵家ではあったが、魔力量も豊富で、婚約者もいる令嬢を望むなど
この国を馬鹿にしているにも程がある
だが、獣王国との販路を広げたい外務卿が
王妃の実家であることの権力を最大限に振りかざして
侯爵家から、そして、侯爵当主から大事な、最上の婚約者を奪っていった
その上、ふざけたことに
外務卿は己の派閥の令嬢を親切ごかして
侯爵当主の婚約者に勝手に決め、王家の威を借り、押し込んできた
その時の侯爵家が感じた屈辱をきっと
侯爵家とそれに連なる者たちは永劫、忘れないだろう
侯爵家はずっと中央にも権力にも関心を持たず
黙々と領地を守り、守護騎士の務めを果たしてきた
だが、その献身など、他家には鼻で笑われ
王家にも伝わっていないのだ、と
今回のことで侯爵当主は強烈に思い知った
それでも、侯爵家は、侯爵当主は
黙々と己の務めと役目を果たそうとした
例え
魔力の釣り合いが良くとも
(もちろん、最上の婚約者と比べれば、砂を食むような苦痛を感じるが)
一切こちらに歩み寄ることがない
そんな無礼で、足らない令嬢を婚約者として押し付けられても
例え
その押し付けられた、足らない令嬢が結婚後も
本当だったら、婚約できた相手という間男との逢瀬を繰り返し
己の悲劇に酔うような恥知らずな妻なっても
例え
そんな恥知らずな妻とお互い、砂を食むような行為を繰り返し
務めのために体を合わせ、ドンドン疲弊していく心と体を抱えながらも
それでも、
侯爵当主は父祖たちが歩んだ苦労や苦痛を思えば
己の役目を放棄することは罪だと思い、飲み込み続けた
きっと、それが未来の希望となると信じていたから……
それが愚かしい幻想だと
侯爵当主が思い知ったのはすぐだった。
25/06 話の齟齬が出たため、修正
誤)当時の王太子妃、現王妃
正)王妃




