第二王子_20
深く考え込む彼に
ここで悪評を被っても
きっと、実妹の侯爵令嬢が社交界デビューをした時
自分が友人となってあげて、力になるから、と
涙を浮かべ、懇願する婚約者に彼は折れた
卒園したものの、実妹の侯爵令嬢はまだ11だ
デビューまでは最短で4年、
ほとんどの令嬢がデビューする18までには7年もある
その頃には、学園であった証拠もない噂話を元にした悪評など
古き一族である侯爵家になんの影響も及ぼさないだろう
そんな計算も動いた
だが、王族として嘘をつくことはできない
だから、問題児の異母妹を使うことにした
侯爵令息の異母妹はその素行の悪さから何度も厳重注意を受け
学業も振るわず、停学処分も二回受けている
今度、大きな問題を起こせば、退学になる
だが、学園を卒業できなかった貴族が
社交界デビューするのは慣例として、許されない
そうなれば、領地送りとなり、飼い殺しになるのが常だ
侯爵令息の異母妹は今、その瀬戸際にいる
それを利用することにした
侯爵令息が
異母妹を妹とは思わない、と公言しているのを知りながら
このまま反省が見られなければ、
(異母)妹を王都から追放するしかない、と
彼は告げた
妹、という言葉で、実妹と勘違いすれば
侯爵令息が何かしらの対処するだろう、と目論んだ
代表挨拶をするためにいた舞台袖で告げたのは
追及を逃れるためだ
実妹が何かしたのか、と聞き返されれば
異母妹だ、と言うしかない
ある種の賭けでもあったが、
侯爵令息は勘違いしたまま代表挨拶に向かってくれた
賭けに勝ったとホッとしたのが勘違いだと分かったのは
壇上から侯爵令息が実妹の侯爵令嬢を
公の場にも関わらず、怒鳴りつけた時だった
そして、あの惨劇
彼は己の愚かさと想像力の無さを思い知った
最愛とも言える実妹の侯爵令嬢をあからさまに厭う位
侯爵令息に
実妹の侯爵令嬢が虐めという問題行動を繰り返していると
学園全体で誤認させた
また、噂を大きく広め
侯爵家嫡男として対処しなければならないように追い詰めた
だから、至宝と呼んで憚らなかった実妹の侯爵令嬢を
仕置きと周りに示すため、学園で放置しなければいけなかった
そんな侯爵令息の心理的負担を考えたことがなかった
何より、僅かな間だと
たった10にしかならない年下の女児が追いつめられるのを傍観し
あろうことか、その庇護者を思惑を進めるために、取り上げたのだ
どれほどの負担を被り、孤独を感じ、絶望を負ったか
少しでも実妹の侯爵令嬢の気持ちや立場を想像すれば、分かることだった
なのに、彼は周りの言うままにそれを放置し
あろうことか、最後の一押しまでしてしまった
己の所業がもう取返しが付かないところにきて
彼が思ったのは、兄に対する謝罪だった
そして、そんな自分は
王族として相応しくない、と自分で思い知った。




