第二王子_13
公爵令嬢や彼の学友の婚約者たちは
男爵令嬢と子爵次男の関係をよくない、と窘めたが
彼や彼の学友はそう言えなかった
子爵次男の気持ちが分かったからだ
子爵次男が婚約を破棄しようとするなら
それは責任放棄になるため、止めなければならない
でも、最低限とはいえ、婚約者としての義務を果たしながら
子爵次男が恋をしただけなら、それは止められない
それに、男爵令嬢と子爵次男の距離は
友人といっても、差し支えない程度に弁えられていて
男爵令嬢には子爵次男への恋情が見えなかった
子爵次男もそれは承知だったのだろう
他の、好意を前面に出して寄ってきていた令嬢たちとは違い
貴族が多い学園で、知り合いもいない中
突如、貴族令嬢となってしまった男爵令嬢への手ほどきという様子で
良き先輩として振舞っていた
図書館で勉強を教える、分かりやすい本を貸してやる
街で見かけた美味しい菓子を茶菓子として出す
そのお礼に男爵令嬢が手作りの菓子を返す
そんなやり取り
正直、それを咎めてしまえば
婚約者持ちは学園内で一切、異性と交流をしてはいけない
そんな話になってしまう
それを咎めるのは、醜聞を諫めるより難しい
人の気持ちに手を伸ばすことは王族にだって無理だ
もちろん、彼の中にやっと戻ってきた友人に
期限があるとはいえ、もう少しだけ猶予を与えたい
そんな気持ちがあったのは確かだ
それがいい結果になるとは思わない
でも、やっと昔の笑顔を見せてくれた友への憐憫が
何より、懐かしさが
彼に子爵次男と男爵令嬢との関係に口をはさむことに躊躇わせた
でも、男爵令嬢に対する、子爵次男の婚約者や
令嬢たちの嫉妬や嫌がらせはどんどん過激に変化する
そう、子爵次男の婚約者だけでなく
子爵次男に憧れていただろう令嬢たちが一気に男爵令嬢を敵視した
学園内でそこかしこで見るだろう普通のやり取りをしているだけの
子爵次男と男爵令嬢
なのに、過激になる嫌がらせや報復行為
荒れ果てた学園に
彼や彼の学友の婚約者たちですら、
嫌がらせをしている令嬢たちではなく
子爵令息と男爵令嬢の関係を咎める
多分、子爵次男が男爵令嬢のために
正しい距離をとってやり取りすることで
より明確に、子爵次男の本気を周りに伝えてしまったのだろう
元庶民で元々、味方の少ない男爵令嬢にとって
どんどん学園が危険な場所へ変化し、これ以上は危険だった
それに学園の混乱も王族の一員として、これ以上放置できない
だから、仕方なく、彼は子爵次男を諫めた
一時、距離をとること
このままでは男爵令嬢が危険だ、と告げる彼に
子爵次男は悔しそうに拳を握って、黙って頷いた
少しずつ、状態が落ち着くだろう
そう思った時にその事件は起きた。




