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虚と現  作者: 沙羅双樹
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第二王子_11


子爵次男の家は、領地を持たないものの

聖騎士を代々排出する名家として、それなりに古い家だ


そのため、同い年の子爵次男は当たり前のように

彼の学友として初めから侍っていた


その頃の子爵次男は、父や兄を尊敬し

自身も聖騎士を目指すのだ、と希望に溢れ

少しまっすぐ過ぎるくらいの人物だった



そんな子爵次男が歪んだのは11の頃


子爵次男の母は三男となる弟を産んだ時に体を壊し

長く療養の床についていた


その治療費は領地を持たない子爵家に大きな負担だったようだが

妻を深く愛していた子爵家当主は

借金を重ねてまで妻への治療に邁進していた



そんな家のゴタゴタで交流会に来る回数は減ったが

それでも、子爵次男は明るく、前向きだった


良かった、と安心していた彼に

びっくりする知らせが届いたのはそれからすぐだった


子爵次男が新興だが、貿易で財を成し、

伯爵位を授かった家の婿養子として、婚約が決まったというのだ


それから、子爵次男が交流会に来ることはなかった



聖騎士になるために、婚約も結婚も一切考えていない

次男で良かった


そんな風に笑っていた子爵次男


おかしいと思って、調べさせれば

婚約者となった伯爵家で溺愛された一人娘が

お茶会で会った子爵次男に惚れ込んで、婚約を申し込んだそうだ



伯爵家とは言え、新興

そして、子爵家とは言え、子爵次男の家は中堅に食い込むため

申し出を断る事は十分できたはずだ


でも、子爵家当主は断らなかった


家への援助と引き換えに、わが子である子爵次男を売ったのだ


そう、言葉通り

子爵次男がどれほど鍛錬に力を注ぎ、

どれほど強く、聖騎士となることを望んでいたか熟知していただろうに

愛する妻を守るために、子爵当主は我が子を売り払った



それからの子爵次男は見ていられないほど荒れ果てた


まっすぐで、ニカリっと笑う

そんな太陽のような男が皮肉に口の端を上げ、

言い寄る令嬢と浮名を流す


13にして、未亡人や愛人を許された夫人方との夜遊びも

社交界で知らぬものがいないほどで

学園で再会した時、彼が知っている子爵次男はもういなかった



婚約者の公爵令嬢が女性の影が絶えない子爵次男を忌避するため

公爵令嬢がいない武術の時間などに交流を持ったが

子爵次男自体ももう彼との交流を望んでいなかった


なんの期待もしていない目で

なんの希望も持たない目でこちらを見ながら

薄く笑う子爵次男を見るのは、彼も辛かった


それでも、学友の皆が止めても

彼は子爵次男との交流をやめなかった


何もしてやれなかったけれど

何もしてやれなかったからこそ、

彼だけは見捨てることはすまい、とそう思った。


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