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虚と現  作者: 沙羅双樹
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侯爵令息_9


そもそも、

こちらは建国当時から続く北の大家と言える侯爵家で

あちらは中堅とは言えるもののただの伯爵家でしかない


無能()の所業故

侯爵家はただの伯爵家に強く出れなかっただけで

それも恥知らず(実母)が再婚し、家庭を持った時点で

それほど強いカードになりえないというのに

いつまでも、こちらを下に見た所業と言える


そんなこと、序列を重んじる貴族院が許すわけがない


もちろん、家名を背負った令息もまた

それを許すことはできない



なぜなら、そもそも

令息自身には伯爵家に対する借りなどないのだ


無能()の所業で家としても借りがあったから

大きく出ることを目こぼししていただけで

無能()から家督を取ったら

こんなことがなくとも、伯爵家とは縁を切るつもりだった


恥知らず(実母)が実妹に最低限の手配もせずに

真実、産み捨てたということを知ってから

令息はそう決めていた



何かと騒がしい周りを一切切り捨て

令息は何より重要な事、実妹の心の安寧に集中した


魔力が至極近しい令息と実妹は

その気持ちを言葉になどしなくとも

触れ合ってさえいれば、魔力を通して感じることができる


だから、無表情の下で

実妹が今どれだけ傷つき、怯えているか

令息には分った


だから、勉強も回されだした執務も

実妹を膝に乗せたまま、令息は行った


まだ、令息以外の全てに恐れ、

令息の魔力の入った果実しか口にできない頃

そうしていたように、四六時中一緒に過ごした



そうして、数か月過ごせば

ようやく実妹は落ち着き、

令息が同じ部屋にいれば、他者がいても平気になり

葬儀に出る前の生活まで戻れた


ようやく戻った日常に安堵したのは束の間

ようやく受けれるようになった問診の結果

医者に実妹の左耳が機能していないことを告げられた



殴られた衝撃で耳の根幹が壊れ

すぐに治療魔法をかけていれば、もしかしたら治ったかもしれないが

中級ポーションでは全壊した機能を治せないのだとか


聞いた時、目の前が真っ暗になった


なぜ、あの時、上級ポーションを作ろうとしなかったのか

なぜ、あの時、あんな愚物どものいうことを聞いて

至宝を危険な場所に連れ出してしまったのか


令息は己の至らなさに苦悩し、憤った



そんな令息を包んだのは実妹の魔力


ふわっと柔らかく、そっと寄り添うように

令息を包む実妹の魔力は実妹の拙い言葉よりずっと

はっきりと令息を許していた


ただまっすぐ、令息だけを慕い、令息だけに寄せる信頼を宿した目で

己を見つめる実妹を抱きしめ

きっと、きっとこれから先何があっても

実妹だけは守って見せると令息はその時決めた。


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