侯爵令息_7
大勢の他者がいる知らない場所で
令息が傍を離れることに無表情で怯える
車いすに座る実妹を抱きしめ、宥めてから
令息は一人、花を二束持って、棺に寄る
本当なら
花は乳兄弟に持たせ、連れ歩いて、棺まで行き
棺の脇で乳兄弟から花を受け取って納棺するのが
侯爵家継嗣としては正しい
でも、令息は敢えて、乳兄弟を実妹の傍に置いたまま
令息一人で納棺へ向かった
ただでさえ、知らない場所に怯えている実妹から
少しだけでも気を許している乳兄弟まで
傍からいなくなったら、実妹の心に負担が掛かりすぎる
それに乳兄弟なら令息の代理として
その他大勢が令息の至宝に近づくのを阻止できる
その権限を与えてある
そのため、令息は一人、護衛兵だけ伴って棺へ向かった
棺に近づくと、棺の傍で泣き喚く2,3歳に見える幼児と
それを抱きしめる実母とその夫を横目に通り過ぎる
挨拶すべきかもしれないが
話したい事もないし、忙しそうなので遠慮した体で
さっさと通り過ぎる
そして、喪主たる叔父に簡単に弔意を告げ
さっさと実妹の元へ戻るつもりだった
だが、叔父は何かと煩く言ってくる
言葉だけの謝意や心配など意味がないと
破綻した家で独り過ごした令息はもう知っている
何より、令息には既に至宝があり
至宝さえ守れるのであれば、
自分がどんな苦痛にも耐えられるし
どんな愚物とも渡り合えると令息は分かっていた
固まった微笑と冷めた目で
叔父との会話を封じ続ける
会話を終わらせようとする意図に
叔父は気づいているだろうに
しつこく食い下がってくるのに辟易としていた
そんな令息の背後に怒声が轟く
「実の祖母を悼む心も持たないとは
そんなお前なぞ、我が孫とは認めんっ!!」
慌てて振り向いた先で見たのは
暴漢に殴られ、浮き上がり、地面に倒れ込む令息の至宝
必死に乳兄弟が立ちふさがるのに
まだ実妹の傍を離れない暴漢を魔力で吹き飛ばし
令息は実妹を抱き上げる
実妹は今日のために魔力制御の腕輪をしていたのだが
恐怖と痛みで暴れる実妹の魔力に
腕輪には深いヒビが入り、実妹の魔力が渦巻き始めていた
そんな実妹を令息の魔力で包むと
ようやく実妹は令息が傍に戻ったと気づいたようで
ホッとしたように目を閉じ、気を失った。




