侯爵令息_4
そして、起こった魔力暴走
それは起こるべくして起こったと言える
元家令は魔力暴走を起こす実妹を止めようと
誰もが逃げ出す中、実妹の部屋へ急ぎ
強烈な魔力に充てられ、部屋の前で倒れていた
目を覚ました医務室で
令息が実妹を保護したと聞いた元家令は何度も
良かった、申し訳ございませんと繰り返し、泣いたという
それを口にすべき者は別にいると令息は思ったが
令息がそう思う相手たちは倒れた実妹に会いにも来ず
その上、父に至っては
領地の別邸へ療養に向かわせろ、と
実妹を更に見捨てようとするだけだった
父に家族としての情は疾うに捨て去っていた令息だが
その時、はっきりと、人としてさえ令息は父を見限った
その後、令息の権限で
職務放棄した使用人は紹介状なしに放り出したし
家庭教師は令嬢に対する傷害と殺人未遂で罪人に落とした
処分について、性悪が何か言っていたが、令息は淡々と問う
「私の判断に不満があるならば、
貴女がこの件に関して無関係であることを明らかにして下さい
貴女は彼らへの情状酌量を求めるが、意味もなく
罪ある者を庇い立てするのは貴族として許されません
ましてや、それが隠ぺい行為の一環であったなら
決して、許されることではない
ですので、まず、神殿で無垢なる証明をしてきて下さい」
そう告げた令息を忌々し気に見て、性悪は去っていった
無垢なる証明は、神官の罪過判定スキルの前で
宣言した事柄に一切の罪を持たないと示すことだ
もし、万が一、その罪があれば
罪人として肩口に神によって償いの証が現れる
証は償いが終わるまで消えないし
償いから逃げれば、証は徐々に大きくなり
体を全て証に侵されると激痛で息をする事さえ儘ならなくなる
もちろん、償いの証が現れた時点で
貴族としては死んだも同じだ
もちろん、実妹に対する虐待の根源と言える性悪が
無垢なる証明を受ける訳はなく、
己への追及を有耶無耶にすべく、無能に泣きついた
性悪を悲しませた令息を叱ろうとした無能
令息は冷めた目でジッと見据え、侯爵家継嗣として無能に問う
「妹への虐待を知らなかったというなら
そして、その上で彼らの罪を許すべきだというなら
彼女自身の潔白をまず、示すべきです
彼女自身の隠蔽工作で罪人を庇い、許したとなった場合
それを外へ知られたら、どう、家名の誇りを保つのですか?」
問われた無能はただ、目を反らし、何も言わず去っていった
それから、二度と無能は令息と目を合わせることをしなくなった
無能を人としてさえ見限っていた令息にとって
無能は血縁上の父であるというだけで
なんの意味もない存在だったので、それに何も感じなかった
何より、小さくて、大切な唯一の家族ができた令息は
家族が破綻して以来、ずっと感じていた
不意にすきま風に当てられたような気分を一切感じなくなった。




