死角からの攻撃
「待たせてごめん、ロベリア!」
リビングに戻ると変わらずお茶を飲んでいるロベリアとセイラ、レイの三人がいた。何やら楽しそうに話していたみたい。
「こちらはこちらで面白い話を聞いていたから大丈夫ですわよ」
「あら、そんな面白い話を?」
「私とレイでミアの色々な話をね?」
セイラがニヤッとしながらそんなことを言う。
「い、色々な?」
「あんなことからこんなことまで面白おかしく……」
「ちょっと、何を話してたのよ……!」
「大丈夫です姉様!しっかりと姉様の素敵さを語っておきましたから!」
胸を張って褒めてもらいたそうなレイとその横でいたずらっ子ぽく笑うセイラ、こちらを微笑ましく見ているように見えてちょっと笑いをこらえているようにも見えるロベリア。とても楽しそうな女子会をしていたらしい。
「本当素敵なお姉さま、ですわねぇ」
「あんまり素敵でもないわよ……最近はちょっと頑張ろうとしてるけど」
「でも彼女から聞いた思い出はとても素晴らしいと思いましたわ。貴女のことを大好きなことも伝わってきましたし」
その妹は反対側の椅子でセイラと何やら話し込んでいる。
「だったら……良かったけど。私はちゃんとレイに好かれるような姉で居続けられるかしらね……」
その様子を見ていたら思わず呟いてしまった。常日頃から考えてはいるけど誰にも話したことのない事。
「貴女がそう思っている限り大丈夫だと思いますわよ」
「そうですよ、ミア様」
私の分のお茶を入れてくれたネイもそんなことを言ってくれる。付きっ切りで一度も私から離れず一緒に生きてきてくれた彼女が言ってくれるとちょっと安心感がある。
「ミア様がレイ様のために一生懸命頑張ってきたのは私が見ていますから。自信を持ってください」
「ほら、貴女の信頼できる人もこう言っているのですし」
「……そうね、あんまり愚痴ってもしょうがないし」
こういう時にあんまり卑屈になってもしょうがないし彼女たちが大丈夫だと言ってくれるなら信じてみよう。
「それにしても、貴女が寝る時誰かに抱き着くなんて面白い話を聞けて良かったですわ」
「ちょ……どういうこと?」
ちょっと人生相談というか愚痴を言ってしんみりしたところで急に方向性の違うことを話し出すお嬢様。そんなこと私でさえ知らないのに。抱き着くって何?
「二人が教えてくれましたわよ?一緒に寝る時に先に貴女が寝るといつの間にか手と足が伸びてきて抱き着いてくるって」
「何それ……私知らないんだけど」
「目を覚ますと普通に隣で寝ているとか」
それはそうだ。いつも誰かに起こしてもらうことが多いけど抱き着いたままなんてめったにない。
「ミア様、いつもそうですよ?」
首をかしげていたら後ろからネイがそんなことを言ってきた。
「う、嘘よね」
「いえ、本当ですよ」
「抱き着いてたなんて……えぇ……?嘘でしょ?」
「抱き着いてくるときのミア様、とってもかわいいんですよ?」
「二人ともそう言っていましたわね。寝言で名前を呼びながらゆーっくり抱きしめてくれるって」
「そうなんですよ!寝言なので舌足らずな感じで名前を読んでくださるのですけど、それがとってもかわいらしくて!」
なんだか知らない間にやっていた恥ずかしいことで二人とも盛り上がっている。顔から火が出そう。
「寒いところとか外で寝る時だと温かくて助かる、とも言ってましたわね」
「あ!ミアの夜のこと話してる?そうなんだよね~。外で寝ることもあったんだけどすごい暖かくて柔らかいんだよね」
「ベッドで寝る時は足も絡めてくるのが愛おしいんですよね……」
さっきまで二人で話していたはずなのにいつの間にか参加してきてるし。何の拷問だろうか。
「えー!何それ!私もその足絡めるの体験してみたい!」
「何でよ!」
「だってミアの足ってすべすべで気持ちよさそうなんだもん」
そう言いながら足をちょっとだけ触ってくるセイラ。
「ネイがいつも手入れしてくれるんだから当たり前でしょ……!」
「それにしても気持ちいいよ~?」
「ずっと触らない!も~!この話終わりにしましょ!ほら!」
いつまでもこの話題が続いていたら恥ずかしさで死んでしまいそうだし強引に話題を切断する。
「まぁまぁ落ち着きなさいな、ミア」
「そうですよ、ミア様。こちらでも飲んで落ち着いてくださいませ」
ネイがお茶を入れて渡してくれる。ついでにクッキーも食べさせてくれる。落ち着く香りのお茶を淹れてくれたネイの優しさが沁みる。まぁ私を追い詰めた一人にネイもいるのだけれど。
「ちょっとからかいすぎちゃったかな?でも事実だしなぁ……」
「もう二度と抱き着かないように気を付けるわ……!」
「いつか見てみたいものですわね」
ロベリアはふふっと笑ってそんなことを言う。絶対このお嬢様の前では一人で寝るようにしよう。これ以上恥ずかしい思いをしたくない。
「ほら、こんな話より選考会の話をしましょうよ」
「強引ですわね」
「いいでしょ!近いんだから。最近私は魔銃の調整とかエイリーンと練習してたけど二人ともどんな感じなのよ」