妹のぬくもり
しばらくして全ての荷物を私の部屋に搬入し終わった。組み立てる前のようで床がほとんど見えなくなってしまった。
「マスター。組み立てを行いたいのですが構いませんか?お部屋を少しお借りしますが」
「ええ。もちろん大丈夫よ」
「ではその間にミア様はお食事になさいますか?」
「そうしようかしら」
「では少々お待ちくださいませ」
そう言ってどこからか取り出した工具を持って作業を始める三人。床とか壁を傷つけないようにしてもらえれば何でもいい。
「ね、姉様?部屋が手狭になったら私の部屋に来ても大丈夫ですよ?」
「多分私の部屋より先にリビングが狭くなりそうよ……」
さっきは見逃していたが朝、家を出たときと比べて家具が少し増えている。しかも明らかに高級そうなもの。多分あのお嬢様方が注文していた家具だろう。
「明日は、カーテンや敷物が届くってネイさん言ってたよ?」
「まだ届くのね……」
あれ以来まだ一回も来ていないのに家具がどんどん増えていく。私の身の丈に合わない様な豪華なお部屋になりそう。
「ミア様、レイ様?ご用意できましたよ~」
先行きにほんの少しの不安を感じていたらネイが呼びに来てくれた。
ご飯を食べてお風呂に入ったところで自室の様子を見に行く。
「どう?順調に進んでる?」
「申し訳ありません、マスター。少し問題が発生しまして今夜中に終わりそうにありません」
ちょっと申し訳なさそうにそう報告してくれる。後ろではくみ上げていたものを分解しなおしているみたい。
「いいのよ、私手伝えてないし。ゆっくり終わらせて大丈夫だから」
「申し訳ございません」
さて、部屋が使えないとなるとどこで寝ようか。ソファーで寝るのもありだしネイのベッドに入れてもらおうか。
「姉様、作業終わってました?」
かわいいパジャマを着た妹がこちらに気づいて話しかけてくれる。
「まだ終わってないみたい。今日は別のところで寝ることになりそう」
「でしたら!私の部屋で是非!」
ぐぐっと顔を近づけてくる。久しぶりに妹と一緒に寝るのもありかもしれない。というかこんなに期待してわたしを見つめてくる妹の願いを断ることなんてできない。
「わかったわ。今日は一緒に寝ましょ?」
「姉様~!」
そのまま抱き着いてくるレイ。背中を軽くさすってあげるとちょっとうれしそうにする。時計を見るとそろそろ寝るのにちょうどいい時間になっていた。
「時間もちょうどいいしそろそろ寝る?」
「いいですね!」
「じゃあちょっと用事を済ませてレイの部屋にお邪魔するわね」
「分かりました姉様!待ってますね!」
そう言ってわたしからパッと離れて部屋に戻るレイ。雰囲気がもう楽しそうでこっちまで嬉しくなってくる。私も、あのくらい可愛いパジャマを着るべきだろうか。まぁとりあえずレイを待たせないように早めに二戸達の様子を見に行っておこう。
「マスター?どうかされましたか?」
さっき見に行ったばっかりなので二戸も少し驚いているみたいだ。
「寝る前にちょっと様子を見にね。あんまり夜遅くまで無理しなくていいんだからね?あなた達もしっかり休んでよ?」
「心遣い感謝します、マスター。お部屋をお借りして申し訳ありません」
「私がお願いしてるんだからいいのよ。久しぶりに妹と一緒に寝られるしね」
「それでは……おやすみなさいませ」
「ん。おやすみ」
ネイ達にもおやすみを伝えてレイの部屋に入る。セイラは私の部屋で寝てもいいのに~!と、言っていたが。
「あ、姉様。用事は済みました?」
「ええ。待たせたわね」
「じゃあ早く寝ましょう!」
ほらほらとベッドに入るように促してくる。もぞもぞと入っていくとほんのりとレイの体温を感じられる。
「……ちょっと狭いかしら」
「姉様と一緒に寝て狭いなら満足ですよ!」
「なら、よかった」
ほっとしたのもつかの間、レイの手が私の手を探してもぞもぞと動いている。ぎゅっと握ってあげると優しく握り返してきた。
「レイの手、温かいわね」
「姉様の手も柔らかくて触り心地抜群ですよ」
この愛しい妹は一つ褒めると一つ褒め返してくる。ちょっとだけ照れくさい。でも昔からそんな感じだった。
「なんだかレイと一緒に寝るのって久しぶりよね……」
「そうですよ!入学してから数回……というか姉様が家を出られてからほとんど一緒に寝られてません」
ちょっとだけ不満そう。確かに家を追い出されてから誰かと寝る時は大体ネイと一緒だった気がする。一緒に行動するようになってからもあんまり一緒に寝られていなかった気がする。
「これからは一緒に寝る回数をまた増やしたいわね」
「私は姉様と毎日一緒に寝てもいいんですよ?」
「それだとまた寝具を変えないといけないわよ?毎日狭いところで寝たくないでしょ?」
「狭いのも姉様の体温を感じられて好きですよ」
「レイがいいならいいけど……」
「それに一緒だと姉様がどこかに連れて行かれることもないですしね」
「レイ……」
思ったよりあの家でのこと、母によって行われたことがトラウマになっているのかもしれない。それくらい声色が暗くなっていた。
「私はもうレイの側から離れないわよ」
「……本当に本当ですよね?」
「本当よ。誓うわ」
もう二度とレイに寂しい思いも悲しい思いもさせたくない。これだけは偽らぬ本心だ。
「じゃあ……もうちょっと姉様の温度を感じさせてください」
そう言ってわたしに半分被さるように姿勢を変えた彼女が私の腰に手を回してぎゅっと抱き着いてくる。
「もう……。おやすみ、レイ」
おやすみの代わりに小さな寝息が返ってきた。