1日の終わり
寮の中に入るとふわっといい匂いが香ってきた。さっきまで意識してなかった分、急にお腹が空いてくる。
「で、この子は……どなた?」
「この子はノア。今日一緒に行動してたのよ」
「ノア・セレンディアです。よろしくお願いします」
「なるほどね!私はセイラ!ミアの友達兼従者だから、これからよろしくね~」
セイラがノアの手を握ってにこやかに握手している。彼女の勢いに少し驚きつつも安心したみたいでノアもちょっと表情が柔らかくなっている。
「そう言えば、ノアもここの寮なのね」
このエルズライト以外にもいくつか寮があるので、同じ寮になれるとはちょっと嬉しい。課題やちょっとしたことを身内以外の人に気軽に相談できそうで楽しみだ。
「はい!そこまで広くはない一人部屋ではありますけど」
「だったら今度、うちの部屋に来てほしいわね。私の従者を案内したいし、あの二人もちょくちょく来るだろうし」
あのお嬢様二人にノアにセイラたちと、部屋がずいぶん賑やかになりそうだ。心強くもあるけれど。
「いいんですか?是非お邪魔したいです」
「早速賑やかになっていいね、ミア」
「そうねぇ」
「私の部屋は皆さんで来るとちょっと狭いかもしれませんが……それでも良ければ是非いつか」
「それはそれでありかも!」
「お菓子を持ち寄って……って言うのもありかもしれないですね、姉様!」
意外とノリノリな妹の言葉に首肯する。想像してみるだけで楽しそうな風景が広がる。こんな学生生活もありなのかもしれない。
「って、もうこんな時間ですね。そろそろ私部屋に戻らないと」
壁に掛けてある時計を見ると十分くらいは話し込んでしまっていただろうか。そう言えばネイがご飯を作ってくれているとさっきセイラが言っていたっけか。
「そうだ、ネイさんご飯作ってるんだった!私達も部屋に戻ろ!」
「じゃあ今日はここらへんでお開きね。また明日、よろしくね」
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ~!ノア~!」
「ノアさんおやすみ~」
どうやら一階の部屋らしく、こちらを見て手を振りながら廊下の奥に消えていく。
「二人の友達がいい子そうでよかった。安心だよ!」
「どこの目線よ……全く」
「うーん……やっぱり二人のお母さん?」
「セイラさんみたいな母だったらとても幸せですね、姉様」
「そうねぇ……」
この位話を聞いてくれて明るい母がいたら確かに幸せな生活を送れそうだ。ちょっとうっとうしさもあるかもしれないけどそこも含めて良い気がする。
「私の事、お母さんって呼んでもいいんだよ?」
「呼ばないわよ」
「え~」
なぜかちょっと不満そうなセイラを横目に階段を上りながらそんなことを言い合う。流石に友達をお母さんとは呼べない。
「じゃあお先にどうぞ、お嬢様。……ふふっ」
部屋の前に着くとセイラがいかにもメイドっぽく扉を開けて中に入るように促してくる。ネイとオーバに色々教わってるとは聞いていたけれど、それっぽい仕草になっている。
「ありがとう、セイラ」
ちょっといつもより高飛車お嬢様っぽく返して中に入る。
「おかえりなさいませ、ミア様、レイ様」
「おかえりなさいませ」
部屋に入ると本物のメイドのネイとオーバが迎えてくれた。
「ただいま」
部屋に入っていくと同時に二人が手早く私達の制服を脱がせてくれる。
「今日は一日お疲れさまでした。学院、楽しかったですか?」
部屋着を着せながらそう尋ねてくる。
「ええ。新しい出会いもあったし、良い学院生活が送れそう」
「それは……!本当に良かったです」
「ミアったら新しい女の子ひっかけてたわよ~?」
「人聞きが悪いわね!友達が出来ただけよ!まったく……」
セイラがちょっといたずらっ子ぽく笑いながらそんなことを言う。
「友達を……とても喜ばしいですね」
「ミア様が1日でお友達を……」
ネイもオーバもちょっと喜び方がオーバーすぎないか。私だって友達の一人くらい……と思ったが今まで二人に友達と言って紹介をしたことはなかった気がする。皆始めは任務などから関係を作っていた気がするし……二人のお嬢様とかセイラとか。
「……今度この部屋に招待するから。その時に紹介するわ」
「楽しみにしてますねミア様。それでは、ご飯用意いたしますね」
「ありがとう」
ネイのごはんとお風呂を済ませてほっと一息つくと段々眠気が襲ってきた。ネイのお茶でだいぶリラックスできているみたい。一日中歩いたから疲れがたまっているのかもしれない。
「姉様。そろそろ寝ますか?」
「うーん……そうしようかしらね。レイは眠くないの?」
「ちょっとだけ」
「お二人ともそろそろおやすみになられますか?」
「そうするわ」
「では、用意は済ませてありますのでごゆっくりお休みくださいませ」
「ありがとう」
妹に軽く引っ張られながらベッドに横になる。
「……レイ?」
当たり前のように一緒のベッドにいる妹。
「今日は一緒に……だめですか?」
「だめなわけ……ないでしょ」
「ふふっ」
久しぶりに他人のぬくもりがある夜かもしれない。
「……レイ、起きてる?」
「どうしました?姉様」
「……明日からも、よろしくね。多分私一人じゃ……うまくいかないから」
「はい!一緒に学院を楽しみましょうね」
一番身近にいて頼りになる人のその言葉を最後に私の意識は闇に沈んでいった。