先輩のご高説
自分のことを優しい先輩と言った目の前の人が自信満々に説明を始めてくれる。
「まず明星戦とね、暁光戦って言うのがあるんだけどね。どっちも七つの学院の中で競うんだ」
「七つもあるんですね」
そんなにあるのにあまり話も聞かなかったのはこの国が広いからか、生きるのに精いっぱい過ぎたのか。
「全部この国にあるんじゃないけどね」
「えっ、そうなんですか?」
「王国に三つ、帝国に三つ、魔界に一つあるよ。合わせて七つ」
「魔界にも?」
「ええ、そうよ。一応一つあるのよ。と言っても歴史は一番浅いのだけれどね」
アル先輩が補足をしてくれる。意外だ。魔界の学院はイメージ的に一番歴史が古いと思っていた。
「浅いと言っても私よりはるかに年上だけどね~」
「当然妾よりも、ね」
「んで、この王国にはオパリアとヘリオドル、そしてこのラピシリアンの三つの学院があるんだ」
やっぱりあんまり聞いたことがない。
「レイ、聞いたことある……?」
「聞いたことだけはありますね。貴族の中にはそっちの学院に行く人もいるらしいと。ただ基本的に庶民から入る人が多いとか」
やっぱりレイはコミュ力が高い分色々社会のことを知っている。
「うん。大体その通り。だから魔法の部分ではうちの学院が有利なんだけど総合的な戦闘能力では結構五分なんだよね」
「そう言いつつちょっと有利だけれど」
「なるほど……」
今年はエイリーンにロベリア、うちの妹がいるから新人戦では結構良い線行きそうではないだろうか。あの子たちは本当に強いと思うし、実際並の貴族庶民で相手になるとは思えない。
「帝国も大体状況は一緒。王国とは五分くらいの戦力だと思うけど最近の明星戦、暁光戦では王国が勝ってるみたい」
「魔界の学院は……」
「妾の国の学院は無駄なプライドで慢心している子が多くてね……悔しいけど負けがちなのよ」
ため息を交えながらそう言うアル先輩。若干の悔しさが見える。
「今年の他の学院の状況は流石に知らないけど、今年はみんなが入ってるし私達が全力で応援するから優勝するんだよ~!」
「先輩たちは出られないんですか?」
完全に応援する側風に言う先輩に聞いてみる。特にアル先輩は強そうな雰囲気が漂っているし代表になっていそうなのに。
「一応……出るのかなぁ。多分。アルは間違いなく出るんじゃないかなぁ」
「妾は出る気しかないわよ」
胸張って自信満々そうなアル先輩。メア先輩は首をかしげながらあいまいに答える。こういう先輩が意外と強いという展開はありそうだ。
「私は……応援側ですかね」
ノアはちょっと自信なさげにそんなことを言う。
「大丈夫大丈夫!腕っぷしに自信がなくても魔法とか色々活躍できる競技はあるから楽しみにしてて!」
「ノアは法力の検査どうだったの?」
「……試験監督の方がざわついていましたけど、あまり詳しくないのでどんな法力だったのかはあまり覚えてないですね」
「だったら大丈夫じゃない?まわりがざわつくくらいならきっと強いはずよ」
詳しくは知らないから適当だけど。
「でしょうか……」
褒められてちょっとうれしそうな照れくさそうなそんな表情をしている。かわいい。
「妾はあなた達の活躍も見てみたいわね。二人の息ぴったりの戦い方が見たいわ」
隣から先輩がそんなことを言ってくる。
「私も姉様と一緒に試合に出たいです!」
「私が足を引っ張らなければいいんだけどね……」
「も~っ!謙遜が過ぎるとちょっと嫌味だぞ~」
笑みを浮かべながらほっぺをつついてくるメア先輩。
「嫌味って言ったってレイの方がはるかに強いんですもん……」
「姉様だってここに来る前冒険者としてしっかり生き残ったんですからそこらの貴族には負けません!」
「ほら、可愛い妹はこんなふうに言ってくれてるよ?」
上手く逃げ道は封じられてしまった。冒険者としてうまくいったのだってまわりのおかげで特に私は何もしてないから高総体みたいな大会で通用するかなんてちょっと自信がない。
「まぁ、選ばれることがあれば全力でやります」
「それでよしっ!」
ちょうど結論が出たところで私達の寮の前に着いた。
「あなた達の寮ってここだったわよね」
「あ、はい!」
「送っていただいてありがとうございます、先輩」
「良いってことよ~。ゆっくり休むんだよ~」
「じゃあ、またね。三人とも」
そう言ってアル先輩がメア先輩を別の寮へ引っ張っていく。
「今度部屋に遊びに行かせてね~~おやすみ~~~~」
引っ張られながらもこちらに何かを叫んでいる。ちょっと苦笑いをしつつ手を振って応答する。
「面白くて優しい先輩ですね、姉様」
「そうね。素敵な先輩だわ」
「あ!帰ってきた!ミア!レイ!おかえり~!」
三人でしばらく二人を見送っていたら、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どう?学院楽しかった?ネイさんが夜ご飯作って待ってるよって……この子は?」
セイラは矢継ぎ早に話しかけてきてノアを見てきょとんとしている。
「その説明もするから一旦寮に入りましょう?」
「だね」