帰り道
建物を出るとすっかり周りには人の気配がなくなっていた。来る時から人の気配は少なかったけど。
「今日は晴れてて夜空が綺麗ね~」
「本当だ……」
夜空を眺めるなんて久しぶりかもしれない。私は星座は詳しくないから前の世界と同じ星空が広がってるかはわからないけれど、あまたの星が煌めいている。
「こんなに綺麗な夜空見るの久しぶりかも」
「私の家ではこんな日は庭で空を眺めてましたね。ちょっとしたつまむものを用意して」
月見に近い物だろうか?ノアの地元に行ってみたくなった。どこか知らないけど、いつか知る機会はあるだろう。
「それ、面白そうだわね!みんなでやってみましょうよ!」
やっぱりと言うべきかエイリーンはそんなことを言い始める。
「……だったら私の家でやればいいんじゃないかしら。都合よく空が見えやすい場所があるし」
「ちょうどいいじゃない!じゃあ、今から……」
「ちょちょちょっと待って!今から!?」
「ええ?だって今こんなに綺麗なのよ?やるしかないわよね」
どうしてこう、行動力が強い皇女なのだ。いや、いいことなんだけれど。
「せめて次の綺麗な夜空の日にしない?」
「え~?嫌なの?ミア」
「いや……そう言うわけじゃないけど」
「まぁまぁ。今日は一日中動き回ったわけだし、みんな疲れちゃったでしょ?ゆっくり休んで次の機会を狙うのもいいんじゃない?」
ちょっと回答に困っていたらメア先輩が助け舟を出してくれた。
「んー……それもそうわね。そうしましょっか。次の空の綺麗な日楽しみね!」
「いつでも使えるように用意しておきますわね」
「姉様、どんなもの用意していきましょうか?」
「簡単に作れるものの方がいいわよね……」
「よければ私が何時も作っているものを持って行きましょうか?」
つまむものを考えていたらノアが提案をしてくれた。確かにこっちの世界の月見はどんな料理を食べるのか気になる。
「じゃあお願いしようかしら。材料とかはこっちで用意するから何が必要か教えてね」
「はい!」
「ロベリア様。お待ちしておりました」
「レディ……待たせたわね」
「大丈夫ですよ」
馬車が多く止まっているロータリーのようなところまで来るとレディシアさんがこちらに気づいて挨拶をしてくれる。
「あ、私の迎えもいるわね」
そう言って二人とも馬車に乗り込む。
「ん。二人とも気を付けて帰るんだよ~」
「それでは皆様、おやすみなさいませ」
レディシアさんが挨拶を残して二人の馬車が見えなくなったところで私達も寮へ帰ることにする。
「いやぁ立派な馬車だったねえ」
「うちのものだって立派よ」
張り合っている先輩もかわいい。
「だってアルの奴とげとげしてるんだもん」
「仕方ないでしょ……!実家で使ってる奴なんだから……」
ちょっとだけ想像ができてしまった。確かに魔界ならとげとげしていてちょっと暗い色を基調にしてそうだ。
「あの二人……本当にお嬢様なんですね」
となりにいたノアがふとぽそりとつぶやく。
「お嬢様って言っても普通の子達よ。私達とそう変わることはないわ」
「……確かに。ここに来るまではまわりが貴族の方だらけなので上手く生活できるかと思っていましたけど、皆さん優しくしてくださって……」
ちょっと安心したように息を吐きながら話してくれる。
「まだ始まったばっかりですけどミアさん達と一緒に過ごせるのが楽しみです」
「ミア、でいいわよ」
「いいんですか?」
「友達がさん付けなんて、あんまりしないでしょ?」
さん付けだとちょっと心の距離を感じるから、という理由は重すぎるかもということは言わないでおく。
「わ、わかりました。えぇと……ミア。これからよろしく……ね!」
「うん。よろしくね、ノア」
「んふふ。良い友情だわね」
ノアとより仲良くなったと思ったら後ろからメア先輩がぎゅっと私達を抱きしめてきた。
「先輩……どこから聞いてたんですか?」
「んー。最初から ?」
本当にいい笑顔をして答える先輩だ。
「可愛い後輩が友情をはぐくんでるところなんて微笑ましいに決まってるよね~」
「先輩も優しい良い人で本当に良かったです」
「ふふっ。後輩の世話は先輩の仕事だからね!任せて任せて!」
「そうだ、授業が始まってから色々質問しに行ってもいいですか?」
「それは確かに私も……」
「ん。もっちろん!良いよ!どんと私に聞いてね!」
自信満々そうに言う先輩。
「……メアに聞くなら妾に聞いたほうが」
「そ、そんなことないよ!後輩ちゃんに教えるくらいならできる!」
かっこを付けた所をアル先輩に思いっきり水を差されている。ちょっと感覚派の先輩な感じが伝わって来てので教えるのはアル先輩に聞いたほうがいいかもしれない。
「そ、それに勉強だけじゃなくて明星戦の話もできるし!」
「明星戦?」
聞いたことのない単語だ。
「まぁ、今年はあんまり関係ないだろうけど学院で代表を決めて他の学院と競技会するみたいなものかな?」
「でも新人戦もあるからこの子達も関係あるんじゃない?」
「たしかに」
「新人戦って言うのは一年生だけなんですか?」
「そうだね。ほとんど訓練も出来ないから各学院のその年の新入生自慢合戦みたいなもんだよね」
「この学院以外って……どこと競うんですか?」
ノアがふとそんな質問を投げかける。実際私も色々なところをめぐったけどあまり詳しくない。
「あれ、ノアちゃんこの学院以外はあんまり知らない感じ?」
「恥ずかしながらここに来るのだけを目指していたので……」
「そっかぁ。頑張ってたんだねぇ。じゃあ、優しい先輩が教えてあげよう!」