先輩の隠れ場所
両手を開いてこちらを向きながらそう言うメア先輩。夕日に照らされた彼女は後光をバックに立っていてどこか神々しさすら感じる。そして、さっきのようににっこりと柔らかな笑みを浮かべているのにどこか儚さを感じる。
「どうかな?私の大好きな箱庭は」
簡単な芝生が敷いてあって、二つの椅子と丸テーブルが設置してある。いつもは先輩二人で使っているのだろうか。
「わぁ……景色が綺麗……」
「ほんと……こんなに綺麗な景色が見られるなんて……」
「喜んでもらえて何より」
「今日みたいに風が弱かったらこれをさすのもいいかしらね」
そう言ってアル先輩は雑具入れのようなところから傘のようなものを取り出す。だいぶサイズが大きい。よくカフェのテラス席にあるパラソルのような物みたいだ。
「うん。ちょうどいいわね」
「こんな眺めのいい場所どうやって見つけたんですか?先輩」
「んー……勘、かな?」
ちょっと考えるそぶりをしたメア先輩はすぐに笑みを浮かべてそう言った。帰ってきた答えはとんでもなかったが。
「勘……ですか」
「そうそう、私の勘ってよく当たるのよ!ね!」
「勘だけは良いわよねぇ」
「だけってなにさ!」
「姉様、ここでお茶でも飲みながら本を読んだらゆっくり休めそうですね」
「そうね……だいぶ優雅に過ごせそう」
「私も入れなさいよ!」
後ろからエイリーンが顔を覗かせてくる。
「もちろんみんなで来るわよ」
「それならいいのよ」
「みんなが来るなら椅子と机追加しないとだねぇ」
「だいぶ賑やかになるわね」
「いいじゃんいいじゃん。二人でいるのもいいけど~、皆でいるのも楽しいよ?」
いつの間にか先輩たちの許可はとれたみたいだ。
「ここの建物の鍵は……うん、人数分また追加しておくから今度渡しに行くね」
「鍵まで……いいんですか?」
「みんななら大丈夫でしょ。いざというときの集まれる場所、とかに使ってもらってもいいしね~」
軽い感じで言う先輩。というかそもそもここは何の建物なんだろうか。途中登ってくるときにも人の気配を一切感じなかったし、使われている感じもなかった。他の建物と違って華美な装飾というか柱というかが全くない。
「そう言えば先輩、ここの建物って何に使われてるんですか?」
「そうだなぁ……しいて言うなら使われてないから借りちゃった、感じかな?」
「この建物一棟ごとですか!?」
三階建てのちょっとした部活棟くらいの広さの建物を先輩二人で使っているのだろうか。
「そうそう。だからちょっと広すぎて管理しきれてないとも……言えるかも」
「間違いないわね。普段使ってるのだって一階下のキッチンと一部屋だけじゃない」
「後は全部倉庫だね……」
「しかも荷物もそんなに多いわけじゃないしほとんど空き教室」
確かに窓から陽射しが廊下にさしていた。
「だから、皆に使ってもらった方がかえって助かるって感じかなぁ」
「なるほど、だったら使わなきゃいけないわね!」
「ですわね。素敵な場所にしませんと」
何やら我がチームのお金持ち二人が何かを企んでいるみたいだ。
「期待してるよ~?」
これからのここの使い方をあれこれ考えていたらいつの間にか日が落ちていた。すっかり辺りは真っ暗だ。
「すっかり暗くなっちゃったねぇ」
「そろそろお開きにする?」
「そうだね。一旦下の階にいこっか」
「は~い」
ぞろぞろと唯一使われていた部屋に集まる。明かりをつけると白色で綺麗にまとめられた部屋が現れる。
「結構おしゃれな部屋ですね」
「アルが結構凝ったんだよね~」
「いいでしょ。普段いる場所なんだから凝ったって」
「もちろんもちろん。私も気に入ってるしね」
全員が部屋に入ったところでメア先輩が手を叩く。
「みんな揃ったね、よーしっ!」
「というわけで、今日の学院案内はここで終了!皆に大体この学院で行くところはあんないで来たと思う……けど、わかんないところがあったらまた聞いてね」
「はーい」
「あと……そうだなぁ。毎年のことだけどこの学院案内で知り合った生徒は大体この後もなんだかんだ関わることになるから……よろしくね」
「そうね。妾達は例外だわ」
うんうんと頷く二人。そう言えば彼女たちにも一年生だった頃があるのか。
「なんか……お二人が一年生だった頃なんて想像てきませんね」
小声でノアがこっそりと話しかけてくる。
「ほんと、そうね」
「じゃあ、そろそろみんなのことを学院出るところまで送ろうかな?」
「先輩たちは寮なんですか?」
「ええ、妾とこの自由人の二人部屋」
ちょっとため息交じりにそう言うアル先輩。
「楽しいよ?アルとの生活~」
「はぁ……確かに楽しいけどね……」
「みんなは寮?」
「私とレイとノアは」
「私達は別に住むところがあるわね」
「ですわね」
「なるほどなるほど。じゃあ二人を送ってから寮に送ろうかな」
「それでいいんじゃない?」
「じゃあみんな、帰るよ~」
「は~い!」