面白い先輩
「せ、先輩……!?」
「そうだよ~?」
いきなり抱きついてきてずっとほっぺたを撫でている先輩を見て驚いた。こちらから呼びに行こうと思ったのに、いつの間に。
「かわいい後輩が来てくれて嬉しいよ~、まぁ私から来たんだけどね」
「メア先輩に……アル先輩……」
メア先輩の後ろでアル先輩が軽くため息をついている。
「いい加減離れてあげなさいよ。困ってるでしょ」
「だっていい匂いするんだも~ん」
「どうして私達のところに……」
「んふふ~。それはねぇ、私達が案内するなら君たちがいいなぁ~って思ったからって言うのもあるんだけど……」
「貴女の妹さんが呼びに来てくれたんですのよ」
「レイが……?」
レイの方を見るといたずらのバレた子供のようなちょっと照れているようなそんな顔をしている。
「姉様ならこの方たちにお願いするかなって思って……」
「……ありがとね、レイ」
「やっぱりミアちゃんってとんでもないわねぇ」
「はい……?」
耳元で先輩が呟く。とんでもない?というかちょっとくすぐったい。
「特待生に姫にご令嬢、加えてかわいい妹ちゃん。よくこんなに面白そうな班作れたわね」
「た、たまたまですよ」
「そうかしらねぇ……」
「いい加減、離れる!」
アル先輩がちょっと怒り気味にメア先輩を引っぺがす。
「案内するんでしょう!これじゃ動けないでしょうが」
「もう、こわいよアル~。老けちゃうわよ?」
「老けないわよ!」
おどけたようにつぶやく彼女を叱るアル先輩。これも仲がいいという奴だろうか。
「大体組めたようだな!では、今日一日色々なところをめぐるといい!よし、行ってこい!」
レーヴェ先生はそう言って壇上からさっさと降りて行った。
ある班は早速講堂を出て行って、ある班は何やら話し合いを始めた。
「ほら、簡単に自己紹介しなさい。あ、妾はアル。アル・カスティリオンよ。よろしくね」
「メアです。よろしくね~」
こちらの班では先輩がまず軽く挨拶と自己紹介をしてくれた。そう言えばエイリーン達と面識がなかったのか。
「ヴィスカリア・エイリーンです。よろしくお願いします、先輩」
「ヴァーミリオン・ロベリアですわ」
「あ、えっと……ノア・セレンディアです!先輩!」
「うんうん。かわいくていきのいい子がそろったねぇ」
メア先輩は品定めをするように彼女たちを見つめている。
「こら、あんまりじろじろ見るな」
「そんなじろじろ見てないよ~」
「ったく……」
「その、先輩?」
一月になることがあったのでこのタイミングで聞いてみる。
「どしたの?どこからまわるか知りたい?」
「あ、それもそうなんですけど……先輩達ってお二人だけなんですか?五人一組が普通と聞きましたけど……」
そう、さっき教師も言っていたが五人一組で何かとすることが多いらしい。であれば他に三人いるはずだが。
「あぁ~……そこ気になっちゃうか」
「何て言ったらいいのかしらね……」
二人とも答えづらそうに首をひねる。
「広義で言うなら体調不良……かな?」
「そうねぇ。いつかその子たちも皆に紹介できると思うけど今はちょっと難しいわね」
「なるほど……」
ちょっと湿っぽい雰囲気になってしまった。話題の選択を間違えてしまったかもしれない。
「他に聞きたいことある娘いる~?」
特に誰も手を上げたり質問をしたりはしなかった。
「じゃあ少し出遅れたけど行こうかしらね~」
少し離している間に他のグループは既に部屋を出て行ってしまっていた。
「それで、どこから向かうのですか?」
「やっぱりまずは……」
「図書館!」「食堂!」
「「は?」」
見事に違う言葉を言ってハモっている。
「え……?図書館って本気で言ってるの?そんな埃っぽい場所……」
「はぁ!?埃っぽいって喧嘩売ってるの!?あんたみたいに食欲ばっか考えてる人間なんていないのよ!学院で過ごしてたら普通調べものに行くんだから最初に行くべきでしょ!」
「だって私そんなことしなくてもできるし……」
「これだから自由人の天才は……!」
「じゃあみんなに聞いてみましょ?」
「いいわよ。どっちがいい?皆」
ちょっと圧のある笑顔で問うてくるアル先輩。
「私は図書館で……」
「私お腹空いたから食堂がいいなぁ~」
「えーっと……図書館で」
ノアは先輩の迫力に圧されて折れてしまった。
「私は姉様が行きたい方で」
レイはそんなことを言う。私の一票で最初に行く場所が決まってしまうとは……。早くどっちか言えばよかった。と、そんなことを考えていると下の方から小さく、くぅという音が聞こえた。
「……ふふっ」
「ミア……かわいいわね……w」
一瞬で何があったかを理解した。顔が赤くなっていくのが分かる。
「これで決まり!最初に食堂行く、ね!」
「くっ……」
自信満々に仁王立ちをする先輩と悔しがる先輩。リアクションが大きくて見ていて飽きない。
「じゃあみんなついてきて~!」
そう言って早速講堂を出ていくメア先輩。慌ててそれについていく。