初日
そんなこんなで、平和に終わった入学式から数日経って、いよいよ登校日が来た。
「今日から学院生活が本格的に始まるのね……」
「感慨深そうですね、姉様」
窓から外を眺めながらお茶を飲んでいると後ろからレイが髪を触ってくる。
「ええ……。始めから気の合う友達がいて、楽しくなりそうなことが分かってるなんて初めてだもの」
「確かに、あの人たちがいれば退屈することはなさそうです」
「それにネイにセイラにオーバに貴女もいるんだもの。安心できるわ」
「姉様……」
「ミア様、レイ様、そろそろ……」
「あ、ちょっと待って。……よしっ!姉様の髪かわいくできました!」
さっきからずっと何かしていると思ったらいつの間にか髪をいじられていたらしい。
「じゃあ行きましょう、姉様!」
鏡を見る時間はなかったけれどかわいくなってるならまぁ……いいか。
教室に着くと既に半分くらいの生徒は来ているようだった。
「あ、ミアとレイ!遅いわよ~」
いきなりこちらに向かって声が聞こえてきたと思ったら声の主は窓際の近くからこちらを手招きしていた。
「おはよう。ミア、レイ」
「おはよっ!」
「おはよう、二人とも」
「おはようございます」
当たり前だが二人とも制服姿だ。早速ちょこっと改造の跡がある。
「二人とも早いわね」
「貴女達が遅いのよ」
「仕方ないでしょ。お茶飲んでたんだから」
「私よりお茶の方が大事ってこと!?」
大げさに悲しそうにするエイリーン。やけにテンションが高い。
「そう言えば席はどのように決まっているのでしょうか……」
「とりあえずは自由みたいですわよ」
「じゃあ、ここに座らせてもらおうかしら」
私はエイリーンの隣に、続いてレイがロベリアの隣に座った。
「あら?なんかかわいい髪型ね」
「ん?ああ、レイが結んでくれたのよ」
「いいわね、似合ってるわよ!」
「私も似合ってると思いますわ」
なんだか妹のおかげで急に褒めてもらえた。レイもちょっとだけ誇らしげだ。
「皆、席につけ~」
彼女たちと喋っていたらいつの間にか教室の前に先生と思わしき大人がいた。ざわざわとしていた教室が急に静かになる。
「よし、皆おはよう。まずは入学おめでとう、これから君たちの担当になるレーヴェだ。よろしく」
完結に自己紹介を済ませた、教壇に立っているちょこっと厳しそうな女教師はレーヴェというらしい。眼鏡をかけていたら完全に厳しい女教師という見た目だ。
「今日はとりあえず授業らしい授業はないが、君たちはここについてほとんど知らないだろうから学院の見学をしてもらう」
「と、言うわけでとりあえず五人一組くらいで集まれ~」
パンパンと手を叩くと皆ゆっくりと集まり始める。
「五人か……一人足りないわね」
「あと一人どこからか集めてこないとね」
私、レイ、エイリーン、ロベリア。うん、やはり何度数えても人が足りない。あまり初見で声をかけるのは得意ではないのだが……と、思いつつも教室の中でグループに入れずにいる人を探してみる。
「声かけられそうな人いる?」
「当たり前というか入学前からある程度集団が決まっちゃってますわね」
「……あの子なんてどうかしら」
「どこどこ?」
「ほら、私達の反対側に一人で座ってるあの金髪の子」
「ああ、見つけた」
彼女も声をかけようとはしているようだがちょっとおろおろしたまま席に座っている。
「私が声をかけてみましょうか?」
いつもの通りレイがそう言ってくれる。彼女の物腰の柔らかさなら確実に連れてくることが出来そうだ。
「……私が行ってみてもいい?」
「良いわよ?」
「任せましたわ」
「姉様……頑張ってください!」
三人の目線を受けながら席を立って彼女の元まで行く。
「あの……ちょっといいかしら」
「は、はいっ!?」
急に声をかけたのでびっくりさせてしまったようだ。肩くらいの綺麗な金髪がふわっと跳ねる。
「……驚かせてごめんなさいね。もしよかったらなのだけれど一緒に組む人がいないのなら私のところに来ない?一人足りなくて」
すると、一瞬固まったと思ったら彼女はくりっとした水色の目をキラキラさせて私の手を握ってきた。
「良いのですか!?」
「え、ええ。あなたが良ければだけれど」
「ぜひ!お願いします!」
こんなに食いつきがいいとは思わなかった。
「じゃあ、これからよろしくね。えぇと……」
「ノアとお呼びください」
「じゃあ、ノア。改めてよろしくね。私はミアリーンよ」
「ミアリーン様……よろしくお願いします」
「様なんていらないわよ。同じ学生なんだし……」
「でも貴族の方には敬語を使った方が……」
「気にしなくていいわ。というか私の班でそんなことを気にしてたら身が持たないわよ。いつも通りでいいから」
そう言いながらノアを連れて三人のもとへ戻る。
「あら、早かったわね」
「この方が?」
「ええ。これで五人そろったわね」