入学式へ
「私の部屋は……?」
皆の部屋割を決めたところでエイリーンがボソッと尋ねてくる。
「えっ?」
全く想定していなかった呟きを聞いて変な声が出てしまった。
「私とロベリアの部屋、ないの?」
本当に不思議そうにこちらを見つめてきている。しかもエイリーンだけじゃなくて二人とも。
「住むの!?貴女達自分の用意した場所から通うって……」
「ほら、たまには泊まることもあるでしょう?それに学院内の集まるところも欲しいじゃない」
「……だったら、この部屋自由に使っていいわよ?ベッドは別で用意するから」
「本当?じゃあ早速家具を用意させるわね!」
「え?」
「レディ、一流の家具を用意して」
「かしこまりました」
「ちょちょちょっとぉ!?」
レディシアに命じて早速何かを調達しだすロベリアに、部下を通じて何か指示を出しているエイリーン。
「ミア様、今までよりさらに賑やかになりそうですね」
「……そうね」
なんだかとんでもなく高い位の人のたまり場になっていないだろうか。色々なものが寄ってきそうだ。
「そう言えばミア、入学式はいつなの?」
「来週だったかしら」
「制服は今日中に届くそうです」
「制服姿の姉様も早く見たいですね」
「別に面白いものはないわよ?」
「入学式って言えば親族が見に来るものだけどミア達大丈夫?」
「あー……そうね。まさか招待状が届いているなんてことが……」
「ありそうです」
「二戸、何か報告は入ってない?」
「いえ、特には」
イオナに実家を見張らせているから何かあれば知らせてくれるはず。それがないならまだその知らせは来ていないのだろうか。
「エイリーンは帝国から誰か来るの?」
「多分母様が来るんじゃないかしら。ついでに何か用事もあるでしょうし」
実際親族同士の色々な会合の場所にもなっているので子供の様子を見に来るよりそっちの方がメインの目的かもしれない。
「母様に皆を紹介したいわね」
「……緊張で立っていられるかしらね」
「大丈夫よ!母様優しいし」
そう言う問題ではない。そもそも友達の母親に会うのも得意ではないというのに。
そうこうしているうちに入学式の日がやってきてしまった。色々新居の準備をしていたらあっという間だった。主にお金持ち二人がどんどん部屋の装飾品を追加していくから必要なさそうなものを間引いていたのだが。程よい部屋の狭さになったと思う。ちょっと豪華すぎる気もするけれど。
「姉様!似合ってますか?」
「ええ。よく似合ってるわ」
妹を見て思うが、こういう儀礼用の制服はどうしてこう装飾品が多いのか。普段は割と自由な服装で着られるとはいえちょっと苦手だ。しかも外用の制服はちょっとブレザーに似ているのが面白い。ここは前の世界と違うはずなのに似ることもあるのだなぁ、なんて。
「姉様も素敵です!」
「お二人とも、そろそろ時間ですよ。ロベリア様たちがお待ちです」
「早くしなさいよー!」
待ちかねているのか、外から聞き覚えのある声が聞こえる。寮の外に出ると他の寮生たちも入学式に行くために友人同士で集まっているみたいだ。
「ほらほら行くわよ!」
「ちょっと引っ張らないで」
エイリーンが進むたびに進路が開けていく。明らかに周りに避けられている。無理もないが。
パーティーの会場と同じところで入学式が開かれる。会場に入るとセイラがこちらに手を振っている。
「あそこね」
先に行って席を確保してもらっていたのだ。どうせなら近くで固まって座ったほうが安心だし。
「皆遅いよ~」
「待たせてごめんね」
今日は彼女も従者としてここにきているからメイド服を着てもらっている。可愛く着こなしていてとてもいい。まわりの他の入学生の従者と比べても私達のグループの方が可愛いと思うのは身内びいきだろうか。
「まだもうちょっと時間があるわね」
「言ってもどこかに行く時間はないと思うけど……」
「もどかしいわね……」
この皇女、結構じっとしているよりどこかで動き回っている方が性に合ってるみたいだ。
「まぁストリーツァ様が校長だからそんな無駄に式を長引かせることはないと思うわよ」
「……詳しいんですのね」
ロベリアがじーっとこちらを見つめてくる。
「そりゃあお世話になってるから……当然よ」
「そういえば、二人ともご家族はもう来てるの?」
「ええ、いるはずよ。終わったら会わせてあげるわ」
「同じく、紹介しますわ」
「……色々な意味で緊張しますね、姉様」
「そうね……」
そんなことを話していたら明かりがふっと消えて暗くなり、それと同時にざわめきも静かになっていった。