姉のような人
「ミア~!」
しばらく休憩してから、また交流に向かおうとしたところで後ろからエイリーンが抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと!?」
「挨拶ばっかりで疲れたから癒してちょうだいよ~!」
「癒すって……私達これからまたちょっと挨拶してこようと思っているのだけれど」
「えぇ~……。じゃあ私もついていくわ」
「いいけれど……」
そして、エイリーンを加えてまた何人かの人に挨拶をしつつ友達になれそうな人はいないか探していた。昔のパーティーで何人か名前を聞いたことのある人はいたがもうあまり覚えていなかった。そして、気になることがもう一つ。
「ねぇ……。なんか私、避けられてない?」
「そう?気のせいじゃない?」
「姉様が美しすぎるからじゃないですか?そこいらの貴族には恐れ多すぎるんですよ。あとエイリーンさんもいますし」
「さすがにそんなこともないと思うけれど……」
「私のせい~?」
なんだか一部の貴族の人に近づこうとするとそそくさと距離を開けられている気がする。別に彼らに何かした覚えはないのだが。そう言えば名乗った直後に驚いているような人もいた。
「もしかして……」
「思い当たることでもあった?ネイ」
その時、後ろからついてきていた彼女が何かを思い出したかのようなそぶりを見せたので聞いてみる。しかし、彼女はちょっとだけ答えづらそうにしている。
「良いのよ?何言っても私怒らないから」
「その……あの事件のことが噂になっているのではないかと」
「噂?」
何か噂になることをしたっけか。とんと覚えがない。
「ほら、レイ様をお救いしたあの」
「あー……どこからか漏れたのかしら」
「もしかしたらお母上がということも……」
それは流石に身内の恥をさらすことになるしないと思うけれど、一度誰かに知られてしまえば人の口には戸が立てられない。もしかして軽い気持ちで人を叩き切る野蛮な人間だと思われているのだろうか。
「まぁやってしまったことは仕方ないわね……」
「大丈夫ですよ!姉様にお友達出来なくても私達がいますから!」
「あんまり慰めになってないわね……」
「久しぶり」
そんなことを話していたら突然後ろから話しかけられる。
「ス、ストリーツァ様!?」
「元気そうね。二人とも。すっかり大人になっちゃって、素敵なドレスね」
そこには煌びやかな緋色のドレスを纏ったこの学院の校長、ストリーツァ様がいた。
「い、いつもお世話になっております!」
「妹に話は聞いてるわ。強くなってるんですってね」
「そ、そんな……私なんてまだまだ」
「謙遜なんていらないわ。テスト結果を見ればわかるもの」
微笑んでそう言って下さる。さらに、手を伸ばして軽く頭を撫でてくれる。
「そちらが帝国皇女の……」
「エイリーンと申します」
「校長のストリーツァです。是非、たくさんのことを学んでいってくださいね。良ければこの子達とも仲良くしてあげてほしいわ」
「はい。彼女たちとはこれからも良き友人でいたいと思っていますわ」
「あの、ストリーツァ様」
「どうしたの?」
「クラナーン様はお元気ですか……?」
クラナーン様とはストリーツァ様の妹君で、なおかつ私とレイの師匠でもある方だ。万軍の緋剣姫という二つ名でも呼ばれているとても強い人でもある。昔はあの人に髪を結ってもらったこともあった。まるで私たち双子の年の離れたお姉ちゃんのような人だった。
あの事件以降ぱったりと会うことはなくなってしまったが、どこからか私達の様子を聞いてはいるようだしまたお会いしたい。
「ええ。しばらくはうちで教官をしてもらうことになっているから会うこともあると思うわ。なんなら呼ぼうかしら?」
「き、今日いらっしゃるんですか?」
「ああ、そうじゃないわ。ここにはいないけど非番だから多分呼んだら来てくれるわよ、ってこと」
「そ、そんなお手を煩わせるわけには……」
流石にお休みの日に呼び出すのは申し訳がない。
「そう?じゃあ、また時間のある日に言ってくれればいつでも会わせてあげるから言ってね」
「は、はい」
「それじゃあ、パーティーを楽しんでね」
そう言って手をひらひらと振りながら会場のどこかへ消えていってしまった。まさかストリーツァ様にお会いできるとは。
「良かったですね、姉様!」
「なかなか強そうな人だったわね」
「ええ。本当に……!」
彼女は稽古が終わった後、クラナーン様と一緒に街を案内してくれたことがあったり、お茶を一緒にしたこともあったり。とにかく私にとって数少ない話せる人であったと思う。と、そんな感慨にふけっているとふいにめまいがして、足元が崩れた気がした。
「ミア様!?」
「ちょっとミア!?」
「ご、ごめん……ちょっと疲れたみたい」
「もう……無理しないでって言ったのに」
「ミア様、そろそろお帰りになりますか?」
「……ええ、そうしましょう。とりあえず必要な挨拶はできたと思うし」
「じゃあ、私も帰ろうかしら」
エイリーンもそんなことを言い出した。
「貴女はまだ話す人がいるんじゃないの?」
「ん-……別に必要な人はしたしなぁ」
彼女まで私と同じようなことを言い出す。
「正直、飽きちゃったわね」
「ちょっと……!」
「姉様、ロベリアさんはどうしましょうか」
「どうって……一緒に帰るわけにはいかないし、後で連絡するしかない気がするわ」
「では、私が残って彼女にお伝えしてきましょうか。マスター」
「良いの?二戸」
「もちろん。マスターには頼れる方がついておりますので、このような雑事は私にお任せを」