表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/162

再起

何も起こらないからほんの少し落胆しかけたところで無機質な声が後ろから聞こえる。

「え?」

そこにはいつか見覚えのある顔が立っていた。服装は前と違ってシンプルなドレスを着ていたが。

「あなた……もしかして……!」

「お久しぶりです。イオナでございます」

「どうしてここに……」

助けてもらったのはもう何年も前だ。どうして今頃になって。

「ミア様……この方は」

ネイはイオナに会ったことがないから、突然話しかけてきた女に警戒をしている。

「あ、忘れてた。イオナさんはね、昔森で迷った時に助けてくれた人なの」

「なるほど……。私ネイと申します」

「イオナです」

ネイとイオナが挨拶を済ませると、イオナはついてくるように言った。

「ご説明は当艦で」

こちらの質問には答えずついてくるように促す。困っていたので二人でついていく。郊外の方まで歩いていく。途中で道を外れて小高い丘に歩いていく。

「何にもないけど……」

「お待ちくださいませ」

手元の表示板で何かを入力している。すると小型の航空艦が現れた。10レムくらいはあるだろうか。(1レム=1m)

「こちらでご案内します」

今まで乗った航空艦で結構いい乗り心地の艦だった。

「この航空艦があなたの……?」

「いえ、こちらになります。隠蔽航行解除します」

イオナがそう呟いた瞬間に目の前に黒い壁が現れた。いや巨大な航空艦だ。

「この艦が……」

「ようこそ、マスター。イオナイドへ」

280レムはありそうな巨艦だ。こんな大きな艦は見たことがない。今まで旅行で父が借りていた航空艦とは比べ物にならない。

「どうぞ、こちらへ」

入り口のような場所から入るように促される。

「艦橋へご案内致します」

ずっと言われるがままにイオナについていく。艦橋と呼ばれた場所は数人の人がいて操縦をしているようだった。


「さて、マスター。改めて、準カリオペ級高速航空艦のイオナイドへようこそ。当艦艦長のイオナです」

準カリオペ級と言うと、大きさのカテゴリでは上から2番目に大きい。このクラスで聞いたことのある船だと1位クラスの貴族の船か国に保有されている輸送艦くらいだろう。

「当艦及び艦内すべての自動人形ははマスターの手となり足となり耳となり目となりましょう」

「えっ……皆さん自動人形!?」

こんな高性能な自動人形など見たことがない。どう見ても見た目は人間だ。一般に流通している自動人形はもっと人とはかけ離れた純粋に作業をするためだけのもので、お金のある人が人に近い見た目をした自動人形を持っているくらいだったはず。

「左様でございます」

「と言うか……どうして私がマスターに?」

「我々は神域戦争の際に建造が開始され、完成した頃には既に戦争は終わっており、建造者はこの世界を去っておりました。当艦を動かすためには建造者と同じ法力のオーラを持っている必要があるため、待っておりましたところマスターが現れたのです」

「私がこの艦を作った人と同じ力を持ってるってこと……?」

「完全に同じではありませんが、大体同じです」

「そんなことが……大体神域戦争って大昔の話じゃ……」

神域戦争は歴史書に載っている類の話だ。大昔、力を手に入れようとした王国と魔界と聖教が骨肉の争いをしたと言うことくらいしか知らない。

「ともかく、我々の使命はマスターに尽くすこと。何なりとお申し付けください」

「わ……分かりました」

いろいろ分からない部分はあるがとりあえずとんでもないものを手に入れてしまったようである。

「では、これからどういたしましょうか」

「……どうしようかな」

「マスターがお命じになれば都市を破壊しむる事も可能です」

「そんなことはしないわよ!」

イオナは思ったより過激な自動人形かもしれない。

「そうだな……学院に通うようになるまでまだ時間があるからいろんなところを巡りながら強くなりたいかも。レイとまた会えたら平和に、自由にいっしょに暮らしたいから。あと、父様のお金に頼りすぎたくもないからお金を稼ぎたいわね」

「それならば、冒険者をしてみるのはいかがでしょうか。各地を巡りながらお金稼ぎができます」

「冒険者、かぁ」

冒険者とは各都市でクランと言う組織に所属するとなることができて基本は魔物、害獣退治や困りごとを解決したり、戦争が起こったら国に雇われて戦いに出ることもある。誰でもなることはできるから身分を隠しながらやるのには存外ぴったりかもしれない。

「でも、私今はこんな服だし武器も持ってないから揃えるところからだね」

流石に町娘のような格好で冒険をしている者を見たことはない。

「そこは我々にお任せを。マスターとネイ様の支度をしておきましょう」

「あ、ありがとう」

「では、まずはカーンへ向かってよろしいですか?」

カーンはこの辺りでは一番大きい町だ。あそこならクランの規模も大きいし目立ちにくいだろう。

「お願い」

「隠蔽航行開始、カーンへ向けて」


「マスター、よろしいでしょうか」

イオナが出撃準備などで作業をしていると後ろから別の声が聞こえた。明るい茶髪の自動人形だ。髪のウェーブとその無表情さのギャップがなぜかしっくりくる。

「二戸でございます。お二方の準備をするためこちらへどうぞ」

そう言うと歩きだしていく。

しばらくついていくと様々な武器防具や服のある部屋に通される。

「では、これよりお二方の採寸をさせていただきます」

そのまま前の世界であったような個室の着替えスペースみたいな場所に入るよう促される。

服を着たまま数秒立っていると

「終わりました。もう出て大丈夫ですよ」

と言われる。

「いったい何がどうなっているのでしょうか……」

ネイが少し心配そうに話しかけてくる。

「多分大丈夫よ、なるようになるわ」

「だとよいのですが……」

いつもしっかり者で強いネイがちょっと不安そうにしているのを見ているとなんだか可愛く見える。こういう時は大体なるようになるものだ。


「マスター、ネイ様。こちらでお好きな武器を選んでくださいませ」

並べてある武器を見ると、どれも高級そうだ。華美と言うわけではないが市場で見かけたら何も考えずに買うのは躊躇しそうな雰囲気がある。

とりあえず私は剣を、ネイは長刀を手に取って二戸に渡す。副武装として小銃なども渡しておく。魔法式の小銃のようで法力を使って弾を撃ち出すようだ。

「こちら、使いやすいように少々調整いたします」

別の自動人形の人が奥の方へ持っていく。

「装束が完成するまでしばしお待ちくださいませ」

二戸がお茶を持って来る。緑茶なんてこちらに来てから初めて飲んだかもしれない。

「レイだったら冒険者になっても強く立ち回れそうだよね……」

温かいお茶を飲みながらふとつぶやく。

「ミア様……」

「マスターも十分規格外でございますよ」

「え?どこが?」

二戸がそう言ってくるがそんなに規格外な思い出はない。

「大法力貯蔵庫と言っても差し支えないくらいの法力量です。結局は使い方にはなりますが、伸び代は十分にあると思われます」

「そんなにいっぱいあるの……?」

「控えめに言っても当艦をしばらく動かすことができるくらいには」

航空艦を動かすくらいの法力量など尋常ではない。人一人が負担しきれるものではないのだ。

「そんなに……」

「流石ですミア様」

雑談をしていると二戸の後ろから数名の自動人形が現れる。

「マスター、ネイ様。準備が整いました。お着換えなさいますか?」

「じゃあ、お願いしようかな」

「私はこのままで大丈夫です」

二戸の案内するまま更衣室に連れていかれて自動人形が着させるのを手伝ってくれる。別に一人で着替えることはできるしそこまで複雑な服でもないから手伝いはいらないのだが、断る理由もないので着替えさせてもらう。

「ねぇ……どうかな?ネイ」

着替え終わったところでネイに見せに行く。ロングのスカートに膝丈の装飾布を組み合わせた少しドレスみのある普通の冒険者とは一風変わった高貴さのある服だ。

「素敵です、ミア様……!」

胸当ても戦闘の邪魔にならなそうなくらいのちょっとした装飾があり素敵な防具だ。

「こちら、少々露出はありますが十分な防御力は備えておりますゆえご安心を。槍で突かれた程度では怪我をすることもありません」

「すごいわね……」

「数日分の装束を用意いたしました。損傷を受けたり洗濯をなさるときはかわるがわるご使用なさってください。ネイ様のメイド服もご用意しております」

「早いわね……ありがとう。二戸」

「また、数日分の食料にその他必要な物と金子を用意いたしました。足りなくなったらいつでも仰ってくださいますよう」

何から何まで至れり尽くせりだ。

自動人形達が一旦その荷物を持って艦橋に戻る。

「マスター。もう少しでカーン近郊へ到着いたします」

イオナが艦橋で操艦を行っていた。外の状況をちらっと見ると結構な高さを飛んでいるようだ。

「ありがとう。そういえば私たちが街に降りた後イオナ達はどうするの?」

「近郊で停泊しております。何か御用があればいつでも駆けつけますのでご安心を」

「あ、じゃあ早速なんだけど実家の様子を見ておいてくれない?妹が……レイが心配」

「かしこまりました。自動人形数名を向かわせておきましょう」

これで心配事なく学院入学まで過ごすことができそうだ。


「到着いたしました。カーン近郊でございます」

あっという間にカーンに到着してしまった。艦から降りると程よくカーンから離れている場所と言うのが分かる。二人が降りたところでステルス状態になってしまうため艦の影は消える。

『それではマスター、お気をつけて』

ネイが、準備してもらった荷物を持って早速カーンへと歩を進める。

大都市のカーンの近くの道なだけあって人の往来は結構激しい。馬車などの列に混じりながら街へ歩いていくと入り口が見えてきた。衛兵が数人入り口で見張りとして立っているが普段一々検問などはされないのでそのまま街の中へ入ることができる。

保養やパーティに呼ばれない限りほかの町に行くことなんてなかったから街を歩くのはだいぶ新鮮だ。活気があって大通りでは市のような物が開かれている。

「ミア様、地図によるとこの町のクランは大通りをしばらく歩いたところにあるそうです」

「どうしようか、最初に宿とか拠点を探しておく?」

「それでもいいかもしれません。一旦大通りにある宿に泊まりますか?」

「そうしよっか」

建物が綺麗そうで大通りに面している適当な宿に入る。

「いらっしゃいませ。カーン1の宿カルフェへようこそ!」

「しばらく泊まりたいのですが」

「お二人ですね、一晩当たり上銀貨二枚になります」

上銀貨二枚だと2000円くらいだろうか。いまいちこれが妥当なのかはわからないのでネイに任せておく。

「ではしばらくの分を払っておくので数日分まけていただけませんか?」

懐から金貨を見せる。

「かしこまりました」

相手にしている看板娘のような子の声が少し上ずっているようだができるだけ表に出さないようにしている。なかなか長期間分を一括で払う客は多くないからだろうか。

「それでは、二階のお部屋をお使いください。こちら鍵になります」

ネイがカギを受け取って鍵に書かれた部屋番号を見ながら部屋に向かう。

「ミア様、こちらがしばらくのお部屋になるそうです」

扉を開けてくれたので部屋の中に入ると、ベッド二つの小奇麗でそこそこ広い部屋だ。窓もあって光が差し込んでくる。

「うん、いい部屋だね」

ネイが常に持っている必要のなさそうな荷物を仕舞ってクランへ向かう準備を整える。

「ベッドもふかふかだし」

軽くポンポンとベッドを叩く。

「準備整いました、ミア様」

「ん、ありがとね。じゃあ行こっか」

宿を一旦出て改めてクランへ向かう。近場には食べ物屋も多くあり生活するのに困ることはなさそうだ。

クランの建物に近づくと段々と冒険者らしいなりの人間が増えてくる。

「ここ……かな?」

5階建てくらいの巨大な建物の前に到着する。

「そのようです」

大きい扉を開いて中に入ると騒がしかった部屋の中が少しだけ静まり、皆こちらをじろじろ見てくる。とりあえず受付らしき正面のカウンターに向けて歩いていく。

「冒険者登録をしたいのだけれど」

受付嬢に用件を伝える。受付嬢も驚いていたようだが、明らかに貴族の令嬢っぽい人間が入ってきたのだから無理もない。

「か、かしこまりました。お連れの方もご登録されますか?」

「私一人だけで」

「で、ではこちらに必要事項をご記入ください」

上質な紙を渡される。必要事項を記入して渡すと受付嬢がこちらをちらっと見てまた質問してくる。

「ミアリーン様……ですね。冒険者についての説明は必要ですか?」

こくりと頷いて説明を聞く。

「まず、当クランに冒険者として登録された時点でレーベクラスになります。クラスが上がるほどより単価の高い任務に就くことができます。また、戦利品を売るときにクランで売っていただければ状態によりますが少し市場より高く買い取りをいたします。

そして、当クランから直接依頼する任務を受けていただければクラスが上がりやすくなります。それ以外の任務であれば実績に応じてクラスが上がります。

最後に、傭兵として当クランに雇われる際にはクランマスターの指揮下に入ることになります」

「なるほど」

「ご質問はありますか?」

「ないわ」

「それでは、頑張ってください」

登録を済ませて任務の掲示されているところへ行く。大きいクランなだけあって多くの任務があるようだ。最初なので簡単な採取の任務でも受けたいところだ。

「ミア様、これなんてちょうどいいのでは」

ネイの指さす先にあるのは森の中で鉱石を採取してくる任務だ。確かに初めてならちょうどいいかもしれない。

「そうね、これにしよっか」

その任務を受諾してからクランの建物を後にする。

「ミア様、だいぶ注目されていましたね」

「貴族落ちなんてあんまり来ないのかしらね」

「ミア様の美貌に見とれていたのかもしれませんよ」

「だとしたら少しうれしいかもね」

そんなことを話しながら街を出て件の森へ向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ