ロベリアの婚約者
「後ろは二人の従者かい?」
「はい。ネイ、セイラ、オーバ、二戸です」
「ふぅん。よろしく、ね」
二人とも私達をちょっとだけじろじろ見てくる。何か気になることでもあったのだろうか。
「ちなみにこの娘、魔族のお姫様だから不敬があると大変なことになるからね」
「魔族の……」
「こら!新入生を脅かさないの!メア!」
「ふふっ」
この先輩たち、思ったよりなんだか変な人達かもしれない。
「まぁさっきのは冗談として、聞きたいことがあったら何でも聞くといい」
「と言っても妾達顔は広くないから人脈面ではあんまり役に立たないけれどね」
「……そうなんですか?」
やっぱり魔族の姫って立ち位置はコミュニケーションが難しいのだろうか。
「理由は大体貴女の予想する通りよ」
「うんうん。この娘私くらいしか友達いないし」
「そう言うことは言わなくていいの!メア!」
「まぁ、今年の新入生の中には二位王太子やその取り巻きと許嫁がいるしそこら辺に挨拶して人脈を作るといい」
「確かに。挨拶しておかないと貴族様は生活がめんどくさくなるわね」
「なるほど……」
「学院に入って最初の方で二年が新入生を学院案内するタイミングあるしその時に色々と教えてあげるよ。今日はまんべんなく知り合いになるといいと思う」
「妾もそう思う。今日は広く浅くでいいと思うわ」
「これ、私達の部屋の番号。いつでも遊びに来ていいから」
そう言ってメア先輩が何やら紙を渡してくれる。
「ありがとうございます。お邪魔させていただきますね」
「姉様、すごいです。先輩相手にしっかり話せてました」
「レイ……私のことなんだと思ってるのよ。あれくらい……」
「でも今までの姉様だったら大体私に任せてくれてたじゃないですか」
「……否定はできないわね」
妹に結構ひどいことを言われている気もするが完全なハズレではないというのが心に刺さる。
「ほらほら、姉様。さっき先輩が言っていたお偉方のところに挨拶行きましょう?」
「ん。そうね」
あまりお偉い様の印象がよろしくないので気が進まないがこれも生きるためには必要だ。
「ミア様、お疲れではないですか?」
「え、ええ。まだ大丈夫よ」
そんなネイの心配を受けつつ人だかりに入っていく。
「姉様、はぐれないでくださいね」
これじゃあどっちが姉なんだか。自分の事ながら情けない。今度は彼女が私の手をしっかりと握って先導してくれている。人だかりを進んでいくと段々と中心にいる人が見えてきた。
「あ、見えてきましたよ。姉様」
「あれが……」
中心には豪華そうな服に身を包んだ男が立っている。隣にはロべリアもいた。許嫁だから当然と言えば当然か。
「ちょうど列の切れ目がありますし行きましょう」
「そうね」
「あら」
「初めまして、レイエス様。ロベリア様。私達は新入生のラスティナ・レイリーンです」
二位王太子のレイエス様に挨拶をする。どうせ何人も挨拶に来ているせいでまともに覚えてはいないだろうけれど。
「初めまして。レイエス様。姉のラスティナ・ミアリーンです」
レイと一緒に頭を下げつつ挨拶をする。
「ふむ、私はレイエスだ。まぁ、同じ学園で同じ学年なら何かと会うこともあるだろう。覚えておく」
直接彼のことを見るのはこれが初めてだが結構かっこいい顔をしている。さわやかな雰囲気に金色の髪が綺麗で体格もいいしまわりできゃあきゃあ言っているご令嬢たちがいるのも頷ける。ちょっと偉そうであるが王族なら仕方あるまい。むしろ少し偉いくらいがちょうどいいのだろう。
「殿下、この二人は私のお友達ですわ。とても腕の立つ姉妹で優しい子です」
「君に友人がいるなんて珍しいな。腕が立つのか……人は見かけによらないものだ」
上から下まで眺めて首をほんのりとかしげる。確かにこのドレス姿では腕が立つと言われてもわからないか。
「いつもお世話になってます。ロベリア様」
「……お友達なんだから当然でしょう」
様付けで呼んだせいかちょっとだけ頬を膨らませて答える。そんなロベリアもちょっぴりかわいい。
「珍しいし、ロベリアの友達は覚えておくことにするよ」
「ありがとうございます」
一礼をしてその場を一旦去る。あまり長居しても迷惑だし、後ろがつかえる。と言ってもその場をすぐ去るのではなくまわりのそれなりに偉い立場にいる取り巻き達に挨拶をする。取り巻きと言えど一位の位を得ているような大貴族様の子女ばかりだ。
「はぁ……疲れました」
「お疲れ様、レイ」
一息をつこうと椅子に座って休憩をする。
「ミア様も大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと疲れたけれどまだまだ大丈夫」
「はい、二人とも。飲み物貰ってきたよ!」
セイラがちょうどいいタイミングで飲み物を持ってきてくれた。
「ありがと、セイラ」
「ふっふ~ん!頼れる従者のセイラさんだからね!」
誇らしげにしているセイラは生き生きとしててとてもいい。
「それにしても……あの王太子以外の取り巻きの男たち、視線があからさまでしたね」
「……そうね。流石にあからさまに見てたわね」
皆、私達の胸元を見ているのがバレバレだった。むしろばれてないと思っているのかかっこよく紳士的に振舞おうとしていた人もいて少し面白かった。
「姉様の胸元ばっかり見て……絶対挨拶なんて聞いていませんでしたよあいつら」
「あいつら、何て言わないのレイ。帰ったら話は聞いてあげるから」
「わかりました……」
「そう考えると王太子殿下は流石に人ができているように見えたわね。ロベリアもあの人なら安心して任せられそう」
「なんか……ロベリアさんの親みたいなこと言ってますね姉様」
「友達の結婚相手なんだからそりゃ心配になるでしょう」