かわいいお嬢様
「ふぅ……緊張した」
「大丈夫?セイラ」
「大丈夫……。何も話してないし立ってるだけなのに緊張しちゃった」
「お疲れ様。これでも飲んでゆっくりしたら?」
お茶を飲むように勧める。少しはリラックスできるだろう。
「ありがとミア……」
「姉様とエイリーンさんが話してくれたおかげで立ってるだけで済んだのは良かったかも……」
「一人じゃなくて助かったわ」
どこかの貴族と違って威厳もあれば圧力もあってなおかつ懐も広そうな人で、一人で相手をしていたら心細過ぎた気もする。いやらしい目で見てこないのは流石の大人というべきか。
「いいのよ!……それにしてもロベリアのお父様、ちょっと違和感あったけれど」
「そうよね……優しい感じはあったけれどロベリア様のことをずーっと名前で呼んでいたし。普通うちの娘とか言うわよね」
「最上流のお家ですし王家に嫁ぐことが決まっているのでそのせいでは……?」
「そう言うものなのかしらね……」
家からいなくなってさらに上の身分になることが決まっているから今の内から娘と思わないようにしているのだろうか。えらい人の考えることはなかなかにわからないものだ。
「それに結局ネイ達まで引っ張り出してきていったい何がしたかったのかしらね」
「一言も話すことはありませんでしたからね……」
「ちょっと大所帯で来すぎたかもしれないわねぇ」
ネイとセイラはいいとして二戸まで連れてきてしまったのはちょっと多かっただろうか。
「まぁ、これで残すはパーティーだけだし楽しみましょ」
「それもそうね。切り替えていきましょうか……っと」
しばらくしてロベリア様が部屋に入ってきた。
「お待たせしましたわ」
「あ、ロベリア様」
ちょっとだけ疲れているような、くたびれているような雰囲気がある。そのまま私の隣に座ってくる。
「お疲れですか?」
「ちょっとだけ……。普段はあまり会わないから少し接し方がちょっと……ね」
いつもと違ってちょっとだけ弱弱しいロベリア様は新鮮だ。
「なるほど……。難しいですよね、普段会わない親族との関わり方って」
「許嫁じゃなかったら、こんな思いもしなくてよかったのかしらね……」
色々複雑な悩みがありそうだ。
「良かったらお話位ならお聞きしますよ。あの時みたいに」
「……それもいいわね。たくさん話を聞いてもらおうかしら」
「姉様、あの時ってなんですか?」
突然ソファーの後ろからレイが顔を出してくる。ちょっとだけほっぺを膨らませて私をジトッと見つめている。
「ほら、レイと再会する前にやった任務でロベリア様のお話し相手をしたことがあったのよ」
「まぁ今は無報酬になるけれど」
「じゃあ、私も一緒にお話聞きます!」
そう元気よく宣言するレイ。三人でお茶会しながらというのもなかなかに良さそうだ。
「ま、まぁいいけれど……ミアはどうなの?」
「ロベリア様が良ければ是非」
「じゃあ三人で今度一緒にしましょうか」
こんなことを言ってはいるが多分その日にはエイリーンやセイラもどこからか嗅ぎ付けて参加してきそうだ。
「ロベリア様、準備が整いました」
「レディ、お疲れ様」
ちょうど日が傾き始めた頃、レディシアが入ってきた。
「じゃあ皆。そろそろ移動しましょうか」
「はーい!」
「どんな人がいるのかしらね。楽しみだわ」
皆がぞろぞろと出ていく中、私はレイとネイに付き添われつつ馬車まで歩いて行った。また少し時間がかかると思ったらあっという間についてしまった。試験の日以来久しぶりに学院の門をくぐった。
「久しぶりですねぇ、ここに来るのも」
「これからは当たり前になるのよ」
「楽しみです」
しばらく学院内を馬車で移動した後、大きいホールの入り口のところで止まった。
「お疲れさまでした、皆様」
レディシアが馬車の扉を開けてくれた。順番に降りようとしたところでロベリア様が私のドレスの裾をつまんできた。
「ロベリア様……?」
「……ちょっといいかしら」
手で隣に座るように招いてきたのでネイ達を先に降ろして彼女の言うとおりにする。
「すぐ終わるのだけど……」
ちょっと言いにくそうにしている。目線を合わせてくれないし、心なしかちょっと顔も赤い気がする。
「ロベリア様……体調が優れないのですか?」
「……そうではないの」
「ではいったい……」
ちょっとだけ沈黙が流れたかと思ったら咳払いと共に彼女が喋りだした。
「その……ね?これから貴女達と一緒に学院で学ぶわけでしょう?」
「そうですね」
「つまり学友……お友達ってことよね?こうやって私的なことも一緒にしているのだし……」
「ま、まぁそうなりますね」
また数瞬の沈黙を挟んで彼女は口を開いた。
「だから……その……私のことをロベリア、って呼んでもらえないかしら……!」
「あ……なるほど。……ふふっ」
「ちょっと!笑うことはないでしょ!」
「ご、ごめんなさい……ロベリア様かわいいなって思っちゃって」
思わぬ彼女の発言にちょっと笑いがこぼれてしまった。やはりこの人はとても可愛くて優しい人なのだ。
「また様付けして……!もう!」
「ごめんごめん怒らないで、ロベリア」
思い切って口調も崩して彼女に話しかけてみた。すると、彼女の眼が一瞬大きく開かれたと思ったら笑顔になった。
「そう!それでいいんです!これからはそうやって呼んで欲しいですわ。ミア」
「ん。わかったわロベリア」
うんうんと頷いたところを見ると満足してくれたみたいでレイたちに少し遅れて馬車から降りた。