急襲
「申し訳ございません。奥方様からの指示がないのでこのままお部屋にいていただきます」
「……えぇ、いいわよ。どうせ動けないし」
外では相変わらず激しい物音がたっている。扉でもぶち破っているのだろうか。派手な強盗だ。正直その揺れと物音が頭に響くからやめてほしい。というかあのメイドがいつの間にか武器を持っている。しかも弓。もし逃げたら遠距離からわたしを殺すつもりだったのだろう。
「端っこの部屋よ!」
外の部屋から若い女の声が聞こえる。どこかで聞いたことある気がする。
「ちょっと!追手が来てるわよ!」
「貴女が強引すぎるんですのよ!」
その声と共に扉が部屋の中に飛び込んでくる。
「えぇ……?」
「何者ですか!」
「秘密よ!ってミア!?」
「大丈夫ですの!?」
顔を仮面で隠した怪しい集団がこちらに寄ってくる。というかこの二人、エイリーンとロベリア様?他の人の服を見るとイオナイドで見たことがある気がする。まさかあの子達……。
「あんまりね……あんまり近づくと風邪うつすわよ……」
「顔真っ赤じゃないのミア!」
「とりあえず全部回収したし早く帰りますわよ!」
ふわっと体が浮く。仮面の女に抱きかかえられている。
「レイさんたちはイオナさん達が確保しましたから安心してくださいな」
「あ……そうなの」
そう言って窓に近づいていく。みんなして来てくれているみたい。
「待ちなさい!」
意識がぼーっとしているのにその一言で体がビクッとする。長年の癖というものはなかなか抜けないものだ。
「それをどこに持って行くつもり!」
「それって……ミアの事?娘にずいぶんな態度ね」
「その化け物はまだ連れて行かせない!落としていいわ」
「かしこまりました」
傍らのメイドに何やら指示を出している。
「化け物って……」
「とりあえず早く帰りましょう」
「ミアーっ!」
隣のベランダからセイラたちの声が聞こえる。それと同時に妹の声も。
「姉様!あっ……!」
イオナが妹を抱えたままわたしに近づいてくる。それと同時に私の首も締まる。
「イオナさん、ダメです!近づいては!」
「……!?かしこまりました。先に戻っています!」
そのまま屋敷の外まで逃げていく。流石イオナ素早い。首元も緩んで呼吸がしやすくなった。
「レイリーンまで連れて行くなんて……」
「奥方様、本当に、撃っても良いですか」
「いいわよ!撃ちなさい!」
その言葉と共に矢が飛んでくる。
「あぶなっ!」
「奥方様、出来れば穏便にお願いします……ね?」
ぼやけた意識の中でロベリア様が軽く仮面をずらしているのが見える。
「あ、貴女は……」
「こんなことをしているなんて知られたくないでしょう、奥方様。ですから穏便に」
矢を飛ばしてしまったからなおさら母は不利になってしまった。そもそも権力には弱いからロベリア様と相性が悪いのだが。
「くっ……」
「ほら、早く行きますわよ!」
「はいはい!」
ロベリア様が母を牽制したところでベランダから飛び降りて逃げ出す。私を抱えた子も飛び降りようと背中を向けると、腕と背中に鈍痛が走る。
「痛っ……」
「申し訳ございません、マスター」
できるだけ揺らさないように抱えて走ってくれる。だが、段々と意識が遠のいていく。エイリーンたちが声をかけてくれているっぽいが段々と聞こえなくなってきた。
「ちょっと!ミアが死んじゃった!」
「エイリーン様、マスターは眠ってしまっただけで亡くなっていませんよ」
「えっ?」
ミアの住んでいた部屋に戻ってこれたのでとりあえず彼女を寝かせることにした。刺さっている矢の傷の治療もしつつ、呼吸を見てみると一応呼吸はしている。少し苦しそうにしているときもあるが。
「毒が塗ってありますね、これ」
「えぇ……」
「本気で娘の事殺そうとしてますわねあの人」
「解毒は済んでいるので後は体調を治していただくだけですけれども」
イオナはそう言いながらミアの汗を拭いている。
「あとは、これをどうするかですわね」
ミアの首元を見ると、怪しい首輪のようなものがついている。さっき攫ってきたときに何か苦しそうにしていたから良くないものであることは間違いないだろう。
「恐らく艦に戻れば何とかなると思われますが……」
「この状態のミアを連れて行くのは気が引けますわね」
「ただ、この状態の部屋にマスターを寝かせておくのも良くないと思われます」
確かに少し横を見ると荒れ果てた部屋が広がっていてかろうじてこのベッドだけが使えるような状況だ。
「……安全な場所に連れていくしかなさそうですわね」
「では、ご案内いたします」
「お任せしますわ」
「よろしくね!」