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絶望の区切り

部屋に戻ってからしばらく咳が止まらなかった。

これで本当にレイと会えなくなってしまうのか。噂じゃ解呪するのにはものすごい手間がかかるという。大切な妹にすら会えなくなるなんてそんなに悪いことをしたのか私は。さっきの判断が合っていたのか間違ってたのかわからなくなってきた。確かにあの二人が傷つけられ続けるのは耐え切れるものではない。だけどレイと二度と会えないというのも耐え切れない。

「……最悪」

自分のことと大切な二人の命を比べてしまった。自己嫌悪。

これから先どうしよう。入学できないとなると王都にいる意味もなくなるしイオナイドで色々なところでも巡ってみようか。その前にあの二人に謝罪しなければならないけど。本当に迷惑をかけてしまった。友達をやめると言われても仕方がない。

「お先真っ暗、ね……」

課題が山積している。どれもこれも崩すのに気が滅入る。

暗い思考に入っているとカタンと机の上に何か置かれた音がする。そちらをちらっと見るとパンと湯気を立てているスープ、それとザワークラウトのような漬物だ。

「……これ、食べてもいいの?」

「どうぞ」

相変わらず無表情に答える彼女。皆といたころと比べると良く言えば質素、悪く言えば適当なご飯だがここ数日だととても豪華だ。いつもの湿気た硬いパンは変わらないが付け合わせがあるなんて。

「……豪華ね。何かお祝い事でもあったのかしら」

もちろん彼女は何も答えない。別に答えなんて返ってくると思っていなかったが。

一口スープを飲んでみる。うん、味が薄い。ろくに具なんて入ってもいない。だが、このパンを食べやすくするにはちょうどいい。何てみじめな。食べているうちに少し涙がこぼれてきた。


とりあえず残さず食べきったがやはりいまいち満足感に欠ける。ここに閉じ込められてから毎日のように思っていることではある。ものの数時間でお腹が鳴る。

やることもないし窓の外を眺める。いつもは窓の近くに行くだけで警戒心むき出しにする彼女も今日は何も発してこない。

「ねぇ、窓の外に出て外の空気を吸ってもいいかしら」

どうせダメと言われるだろうが言ってみた。

「ええ。構いませんよ。ただし、そこから先はもちろんダメです」

何とあっけなく許可をくれた。もちろんベランダを超えて逃げようなんてもう思っていない。久しぶりに埃っぽい室内から外の空気に触れられた。

「ふぅ……」

天気が良くて、こんな日に皆と散歩ができたらとても幸せなんだろうなと思ってしまう。だいたい異世界にきて何でこんな目にあっているんだ私は。そもそもあっちの世界が嫌になってこっちの世界に来たのに、あの人間関係から逃げてきたのにこっちでもこんなつらい思いしなければいけないなんて。あの謎の声を呼ぼうにもこっちから呼んでも反応してくれないし。

「ほんとにどうしてこうなるのよ……」

こんなぼろい服を着て強制ダイエットをさせられる予定じゃなかったのに。わたしにはこれが高望みなのだろうか。

しばらく外の風に当たっていてもなんだか気分がいまいち晴れない。他のベランダには誰の姿もない。もしかしたらネイ達やレイの姿を見られたらなんて思ったけど全く期待外れだ。

「はぁ、もういいや」

窓を閉めて部屋に戻る。何かここからハッピーエンドに迎えるいい案を考えよう。

「……気分転換はできましたか?」

「え……ええ。おかげさまで」

いきなり声をかけられてびっくりした。本当に彼女だけは読めない。

ぼふんとベッドに横になる。まだ日は高いから当然眠気なんて来ない。暗い天井を眺めながら考える。

「どうしたらいいのかしらねぇ」

答える者は誰もいない。一人で考えるしかないのだ。私達がハッピーになる方法を。いつも周りには相談に乗ってくれる人がいたので彼女たちに頼りっきりだったのだなって思う。考えれば考えるほどあの子がいれば、この子と連絡が取れればとなる。


周りはすっかり真っ暗になっていた。もちろん夜ご飯なんてない。このまま寝るしかない。

だいぶ長い時間いろいろ考えていたが結果から言えば何もいい案は浮かんでこなかった。この忌々しい首輪がどうしても邪魔になる。

「八方塞がり、詰みね」

イオナ達と会うことができれば、この首輪がどうにかなる目途さえつけば良いのだが。と、そんなことを考えていると急に首が締まる。

「う、嘘っ……!?」

十秒くらい締まったところで急に緩まる。まだレイとの契約はできていないはず。だとすればあの母が人為的に締めているとしか考えられない。そんなことを思ったらまた締まった。

さっきよりも強い。

「息……できなっ……」

また少しして緩まる。そんなに私のことをイジメたいのかあの母は。部屋の隅からこちらを見ている彼女は全く助けてくれる気配はない。それどころか何か記録しているみたいだ。

結局その日は全く眠ることができなかった。不定期に首が締まるのだ。当然安眠なんてできるわけがない。


翌朝、一睡もできずに日が差してきた。朝はまた硬いパン一つだけ。昨日のスープはどうやら本当にお祝いご飯だったらしい。相変わらず硬いし美味しくない。そしてとんでもなく眠い。少しうとうとすると彼女が起こしてくる。

「起きてください」

「お食事がこぼれますよ」

いい加減少しイライラして来た。

朝ごはんが終わればとうとう儀式の時間。これでレイと会えなくなってしまうらしい。まだ実感が湧かない。

いつもの部屋に連れられて、机を改造した手術台のようなところにうつ伏せに固定される。身をよじろうにも全く動けない。完全な無防備だ。

「……今なら普通に殺されそうね」


しばらくすると扉の開く音がする。数人が入ってくる。

「……姉様!」

「レイリーン。これをもう姉と呼ぶのはやめなさい」

愛おしい妹の声と冷たい母の声が聞こえる。

「じゃあ、始めるわよ」

さっさと終わらせたいのか母が従者に命令して儀式を始めさせる。

「これをあれの腹につけなさい」

「かしこまりました」

その会話が聞こえたと思ったら貫頭衣のような私のぼろ布を思いっきり背中まで裂いて何か細いベルトのようなものをお腹に巻きつける。ひんやりとした皮のようなものだ。

「じゃあ、レイリーン。少しだけ血を分けてちょうだいね」

「……」

妹は何も言わない。


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