夜中のこっそり話
「二人とも本当にごめんなさい、家庭事情に巻き込んでしまって」
「いえ、レイ様。私はミア様の従者ですので」
「そうそう!私も従者で友達だもん!大丈夫大丈夫!」
深々と頭を下げていた彼女は私達の返答を聞いてとりあえず安心してくれた様子だ。
「でも、状況はよくないんです」
「そうなのですか?」
外界の情報が絶たれていてミア様がどうなっているのかすら把握ができていない。
「姉様は今入学をやめるよう母様に脅されていて……」
「嘘ぉ……?本当に?」
「ええ。私も母様を説得をしようとはするのですがなかなか成果が上がらず……」
本当に悲しそうな顔をしている。それにしても本当に彼女たちの母親は本当にミア様のことが嫌いみたいだ。
「もうどうしていいのか……」
この状況で唯一と言っていいあの方に意見できる方がどうしていいか困っているのはだいぶ重症ではないだろうか。このままじゃ本当にミア様が入学をあきらめざるを得なくなってしまいそうだ。
「我々ではミア様をお救いすることが難しいですね……」
「……1つだけ考えはあるんです」
少しだけ間を開けてからゆっくりと彼女が話し始める。
「そうなのですか?」
「ええ。ちょっと過激なのだけれど……」
少しいいにくそうにしている。そんなに過激なのか。
「お聞かせください。お手伝いできることは何でも致しますから」
「……私達で夜の間に姉様を連れ去ってしまう。と言うものなのですけれど……」
「そ、それは確かに過激ですね」
我々三人だけでミア様を攫って逃げ切るのは大変そうだ。
「でもミアのお母さんの兵隊結構人数いそうだし三人でできるのかな……武器も取り上げられちゃったし」
「逃げ切るだけなら、何とかなるかもしれません。母とは二度と会えなくなってしまうでしょうが……」
内心複雑そうな彼女の表情を見るとこっちも苦しくなってくる。
「そもそも何でミアとミアのお母さんってそんなに仲悪いの?」
当然の疑問をセイラさんが聞いてくる。そう言えば彼女にだれもあの家の内情を話していなかった。
「昔からずーっと仲悪いんですけど、姉様のあの可愛さであまり人と関わりたがらなかったのが原因……でしょうか」
「本当に性格が合わない、というか……ミア様のツンツン具合が気に入らなかったのでしょう」
「兄様を殺してしまったのも一つあるのでしょうし……」
「確かにそれは大きそうですね。あの方は結構気に入られていましたものね」
「……貴族のお家って複雑なんだねぇ」
セイラさんは理解したのかわからないけれどうんうん頷いている。
「ともかく、姉様を救うための手立てを考えなければなりません。お二人とも何か考えがあれば是非教えてくださいませ。また明日もお邪魔しますので」
そう言うとレイ様は入ってきたところから同じように戻っていく。
「レイさんって結構身軽なんだね……ミアと言い、お嬢様なのに貴族じゃないみたいに動き回るし」
彼女が帰った後に改めてベッドに入って、ふとセイラさんが呟いた。
「ミア様もレイ様も他の方たちより自由に行動されていましたからね」
「というかミアってお兄さんと大変なことがあったんだね」
「……ええ。悪いのはギアス様、つまりミア様のお兄さまなんですけれどね」
「そうなの?」
誰かにこのことを話したことなんてないが、これからミア様と生活を共にしていくなら話しておくのもいいかもしれない。勝手に話したのを怒られたら謝ろう。
「昔レイ様のお見合いがあったのですが、その日の晩にミア様とレイ様をお見合い相手の方とギアス様がお二人を襲ったのです」
「えっ、嘘ぉ……」
「それでミア様が抵抗しているうちにお二人を殺害してしまったのです」
「……そうなんだ」
「あの時、服が破れ血塗れで立たれているミア様を見る時は思わず動けなくなってしまいましたけれど……あの時ミア様をお守りできなかったのが心残りではあります」
「守れなかった?」
「その後すぐにミア様はお母様に取り押さえられて倉庫に押し込められてしまったのです」
「えっ、酷い!」
「結局レイ様のおかげで殺されずに済んで、屋敷を追い出されたのです」
「そっかぁ……。でも、ミアも一人ぼっちじゃなくてネイさんが一緒にいてくれて心強かったでしょきっと」
「だと嬉しいですね。私はもうミア様と一緒にいない人生は考えられませんので」
「わたしもそうかも!ネイさんとミアとメーシャと離れるなんて考えられないな」
「ふふ……。これからもどうかミア様と良きご友人であってくださいませ」
「もちろん!」
元気のいい返事を聞いたところで段々と眠くなってきた。視界が暗くなったところで隣からもすぅすぅと寝息が聞こえてきた。
「はぁ……」
もう何日目だろうか。母から突然呼び出されては入学をしないように言われて殴られる。この繰り返しだ。
「もう嫌……三人とも会えないし」
ずっと軟禁され続けている。冷たい目でこちらを見つめるメイド一人がいるこの部屋から早く出たい。そんなことを考えて気分が沈んでいると、また扉が開かれて連れていかれる。
「いい加減、心は決まった?」
「……」
高圧的ないつもの声。まわりの視線が突き刺さる。
「早く決めた方がいいわよ。お前のお友達が大切ならね」
いつもの問いかけだ。無言で無視し続けているといつもの通り鈍痛が飛んでくる。しかし、今日は違った。扉が開いてまた聞いたことのある声が聞こえた。
「母様?」
「あら、わざわざ来てくれたのね。ヘレーナ」
私の姉、ヘレーナの声が聞こえてきた。
「せっかく母様が来て下さったのだから、当然ですわよ。にしても……」
「これはいいわ。元に戻しておきなさい」
そう言って兵士にまた掴まれて部屋に戻される。