試験終了
「ま、少し安心できたかも」
「それはよかったわ」
ちょうどお茶を飲み終わったところでレディシアが声をかけてくる。
「皆様、そろそろ試験が終了しますので講堂へご移動をお願いいたします」
「あら、もうそんな時間なのね」
「お茶美味しかったわ」
「いえいえ、当然ですわ」
またレディシアを先頭に講堂へ向かう。ちらほらと試験を終えた生徒とすれ違う。皆疲れているようで歩くのがゆっくりだ。
「皆結構疲れてるみたいだね」
「そりゃあよほど実力差がなければ全力を出すでしょうしね。試験の理念に合致しているわ」
そう、私たちの戦いの方が異端だし試験になっていない。別にこの結果云々で入学が拒否されるわけではないからそんなことは私達に関係ないが。
「ただ浮きそうではあるよね……四人とも」
セイラが視線を逸らせながら言う。
「そう?姫と許嫁の二人はそりゃ浮くでしょうけど……私達は普通の貴族よ?」
「ミア、それ本気で言ってる?」
「姉様それはちょっと……」
二人ともだいぶ訝しむ目でこちらを見てくる。
「そんなに変なこと言った……?」
「流石に貴女達姉妹が目立ってないなんてことはないと思うわよミア」
「そうだよ、ミア。あんなに派手な立ち回りをしてるしお姫様たちと一緒にいるし、可愛いし……目立たないわけがないと思う」
「そうですよ姉様!」
「あー……」
そう言われると確かにそうだ。こんなに有力者と一緒にいて目立たないわけがない。せっかくこの世界ではお友達たくさん作ろうと思ったのに。
「やっちゃったわ……」
「姉様?」
まぁこの人達といればイジメられることはないだろうし前よりはましそうだ。
「ううん。何でもないの」
「まぁ心配する必要なんてないわよ!私達が一緒にいるもの!」
まぶしい笑顔でエイリーンがそう言ってくれる。
「……ありがと」
そんなことを話しているうちに講堂についてしまった。
「皆様こちらへどうぞ」
レディシアが開いているところを見つけて案内してくれる。と言ってもまだまだガラガラでどこでも座ることはできそうだった。
「まだ他の人たちは来ていないみたいね」
「私達と違って他の人の試験を見たり疲れて休んでいたりしたのではないでしょうか」
「ま、いいわ」
隣に座っている妹の髪を軽くいじりながら皆が来るのを待っているとしばらくして、ぞろぞろと他の生徒が入ってきた。彼ら彼女らは部屋に入るなり入り口近くにいた私たちの方を見たかと思うと目をそらして少し離れた場所に座り始める。
「見事に避けられてるわね」
「まぁまぁいいじゃないですか姉様」
レイが横から返してきてくれたが、耳元でつぶやいていたのでほんのちょっとくすぐったい。というか彼女が私の腕にしがみついてきているのはいつものことなのでいいのだがなぜエイリーンまで私の腕に?
「ん?」
ちらりと彼女の顔を見つめるとこちらを見返してくる。
「エイリーン、そんなに距離近かったっけ……?」
「あ、ごめんごめん。嫌だった?」
「嫌じゃないんだけど妹以外だとあまりないから」
「あぁ、そう言うこと。妹さんがずーっとくっついてるからそんなに貴女の腕は良いのかしらと思ってね」
「……で?どうだったの?」
「すべすべで抱き心地良いわね」
「そう……ならよかった」
そう言ってまた私の腕をぎゅっと抱きながら前を見ている。動けない。二人ともちょっと体温高めで心地いいのはあるが本当に動けない。
「皆さんそろったようですね」
今までと違って前の壇上には物腰柔らかそうな女の人が立っている。
「はい、では皆さん試験お疲れ様でした。これからこの学院に入学するであろう皆さんの実力をしっかり見せてもらったので更に発展ができるように一緒に学んでいきましょうね」
「今後の予定に関しては通神書を用いて皆さんに連絡させていただきますね。主に交流会や寮のことが書いてありますのでしっかり確認してください」
聞き取りやすい優しい声で語ってくれる。
「あんな人いたのね……」
「姉様知らないんですか?あの人」
「レイは知ってるの?」
「もちろんですよ。私達の剣の師匠の姉のストリーツァ校長です」
「えっ、そうなの?」
二人でこっそりと話しているうちに彼女の話は終わって既に退場をしていた。
「そうですよ、姉様。あのクラーナさんのお姉さんですよ」
「そうだったの……」
私達の剣の師匠、万軍の緋剣姫と呼ばれているクラーナさんに姉がいたとは。今聞くまで全く知らなかった。そんな話もしていなかったし。
「まさか校長自らお話してくれるなんて思わなかったわ」
「貴女がいたからじゃないの……?」
「まさか。貴女こそ」
レイリーンとロベリア様は互いににらみ合っている。険悪なムードはなさそうだからほっておこう。
どうやら今日の予定は終わったらしくばらばらと周りの人が帰っていく。
「私達も帰りましょっか、レイ」
「そうですね、姉様」
「あら?もう帰るの?」
「ええ。もう終わったみたいだし」
「じゃあ私も帰ろうかしら。準備もあるし」
「準備?」
「ええ。ちょっとした学院に入る前の準備があるのよ!」
エイリーンは帝国の人だし何かと大変なんだろう。
学院の正門までは一緒に帰ることになった。
「ごめんなさいね。貴女達を送りたかったのだけれどこれから用事があって」
「大丈夫よ~!」
「ご心配なさらずに」
まず最初に少し申し訳なさそうにロベリア様が帰っていく。