最後の試験
結局、第三戦闘試験が始まるまで四人で休憩をすることになった。
「第三戦闘試験を始めるから集まれ~!」
休憩室に響いた教官の声で皆グラウンドに移動し始める。
「では、これより試験を始めるので各々二人組を作れ!」
ほとんどの人たちは予め組む相手が決まっているようで組み終わるのにあまり時間はかからなかった。そして、それぞれのグループに番号札が渡されていく。
「では、5番!26番!前へ!」
「あら、もう呼ばれたのね」
どうやら最初のグループにエイリーンたちが呼ばれたらしい。どうせ暇だし彼女たちの戦いを見物しよう。
二人の系統の違う赤い髪がきらめいていて、入場するところから既に気品がある。特にエイリーンは自信満々そうだ。何ならオーラだけで威圧しているようにも見える。
「では始め!」
その合図で始まったが、始まったのは試験と言うより一方的な蹂躙だった。当然と言えば当然だが一般的な貴族の子女が受けるレベルの戦闘技術で実戦経験のあるエイリーンに対抗できるわけないのだ。さらにロベリア様も十分に強い。なおさら勝てるはずがない。
「きゃあっ!」
「うおっ!?」
情けなく壁に打ち付けられた男女のペア。めちゃくちゃ誇らしげにこちらを見つめる二人と目が合った。
「そ、そこまで!」
試験の目的には合致していない様なただの蹂躙が繰り広げられただけだった。二人の相性なんて関係なくただの力押しだ。
そして、次の組み合わせの発表。
「次、12番と33番!」
「姉様、私達ですよ!」
妹が12番の番号札を見せてくる。
「そうみたいね、頑張りましょうか」
すると、グラウンドに降りる途中で二人とすれ違った。
「ミア、頑張ってね」
「期待していますわ」
二人の笑顔と期待が少し心強い。これは絶対負けられない。
グラウンドに降りるとガタイのいい男と、目つきの悪い男の組み合わせが立っていた。なんだか嫌な雰囲気を感じる。かつて兄から感じた物と同じ下品な目線だ。
「姉様……」
妹も不安に感じているらしい。
「始め!」
教官の声を聞いて剣を構える。ガタイのいい男はその体に見合った大剣、目つきの悪い方は関節剣の様な武器だ。
「相手がお嬢様だと楽勝で助かるぜ。さっきの女みたいにちょいと小突いてやれば終わる」
「ほんと皇女と当たらなくて良かったよなぁ」
「……姉様。不快です」
「本当にそう」
相手がわざと聞こえるように会話してきてとても不快だ。
「こんなものは早く終わらせましょう、姉様」
「ええ、そうね」
「何ごちゃごちゃ話してんだ?」
私達が構えたのを見て何か話しかけてくる。
「姉様にはあのデカいのをお任せします」
そう言うと彼女は一歩を踏み出して、関節剣の男との距離を一気に詰めた。驚く男にまず一太刀を浴びせる。ギリギリのところで受けた男だが、大きく体勢を崩した。さらに追撃をして行く。
「何っ……!?」
「不快なので手早く終わらせます!」
「まずっ……!」
私も大男に迫ってまだ構えてもいない大剣を弾こうとする。
「させるかよ!」
しかし流石に反応されて受けられる。
「軽いなぁ!」
「くっ……」
そのまま何回か打ち合うが、徐々に圧倒されて体格差で吹き飛ばされる。少し距離が離れてしまった。
「こっちは大したことねぇな……まぁ憂さ晴らしにはなるけどよぉ」
「姉様!?」
「痛ったぁ……」
レイがこちらを見て驚いているがそれでも関節剣の男を圧倒している。こんな強くてかわいい妹を心配させるわけにはいかない。
体を起こしながら軽く土をはたく。舐められたまま終わるのは癪だ。
「まだやんのか?怪我するぜ?」
軽く笑いながら言った彼の言葉に少しだけ苛立ちを覚える。いつまでもやられっぱなしだと思うなよ。もう前の世界とは違うのだ。
「それは、どうかしら……ねっ!」
今度は身体強化の魔法を自分に掛けた。私に使える唯一の魔法を。
「何っ!」
また、一気に近づいて剣を叩きつける。激しい剣戟の音が響く。さっきと違って打ち合っても全く負けないどころか徐々に形勢が逆転していく。
「さっきの威勢はどうしたのっ!」
少しだけ余裕が出てきたので意趣返しのように言い返す。嘲りも込めて。
「舐めんなぁ!」
苛ついたであろう彼が思いっきり剣を振り下ろしてくるが、そんな大振りな攻撃は魔法なんか掛けてなくても簡単に避けられる。私の避けた剣が耳の横で風の音をならしながら地面に当たって土煙を立てる。
「隙だらけよ!」
がら空きのお腹に蹴りを数発放つ。体勢が崩れた彼の横っ面を思いっきり蹴る。いい音がして壁際に男が吹き飛んでいった。ほぼ同時にレイも相手の剣を甲高い金属音を響かせながら弾いて剣を突き付ける。
「まだ、やる?」
彼は言葉ではなく両手を上げて降参を示した。
「そこまで!」
教官の声が響く。私達の勝ちのようだ。
「やりましたね!姉様!」
剣をしまったレイは綺麗な黒髪をなびかせながら私に抱き着いてくる。
「ええ。強くなったのね、レイ」
「姉様も流石です!」
彼女はとにかく私も褒めてくれる。悪い気はしない。
「じゃあ、ほら、早く戻りましょ?次も始まるでしょうし」
「あ、そうですね!」
そう言ってするりと流れるように私の腕をがっちりと掴む。まるで妹と言うより恋人みたいだ。