試験後半戦
「私も貴方と暮らしたいけど、卒業した後はどこに住もうかしらね」
今の仮家は多分卒業した後には使うことは出来ないだろう。妹は実家より私と一緒に暮らしたいそうだし、縁を切ることになるはずだ。
「姉様と過ごすならどこでも……」
「まぁ私の今の貯金ならどこかの町にお家が買えるかも知れないわね」
「ミア様、一時的にイオナさんの所にいればいいのではないでしょうか?」
「あ、それもありかもしれないわね」
「イオナさん?」
そう言えば彼女は知らないんだった。
「今度紹介するわ」
「それにしても、姉様の周り賑やかになりましたね」
「あれから、色々あったから……ね」
隣のベッドのセイラたちはもう眠りかけているようで、セイラがメーシャの頭を撫でながら横になっているが段々そのシルエットが平坦になっていく。
「あの子たちも寝ちゃったみたいね」
気を利かせてネイが私達のベッドの側に小さい明かりを灯してくれる。
「二人とも、可愛いですね」
「見てて微笑ましいわ」
「私も一緒にいられなかった分たくさん一緒にいたいです」
「もちろん、これからはずーっと一緒よ」
しばらく離れただけだけど妹はだいぶ甘えん坊になったみたいだ。家を出る前と変わったかと言われると大して変わっていないようにも思えるけど。
「……段々眠くなってきました。お茶のおかげでしょうか」
「そうね。明日も試験はあるしそろそろ寝ましょうか」
「はい……!」
彼女をしっかり隣に寝かせて、布団を掛けてあげる。
「姉様、手を握っていてもいいですか?」
「ん。もちろんいいわよ」
「おやすみなさいませ、ミア様、レイ様」
ネイがさっき点けてくれた明かりを消す。真っ暗な部屋になったところで私の意識も沈んでいった。
次の日、目覚めると右腕が温かかった。まだ明かりがないくらいの時間だが、目をこすりながらそちらを見ると妹ががっしりと腕を掴んでいた。すぅすぅと寝息を立てていてとても可愛い。
「ミア様。どうされますか?もう少しお休みになることも出来ますが」
小声で伝えてくれるネイ。私よりも早く起きていたなんて睡眠時間足りているのだろうか。
「もう少し大丈夫なら、寝かせてあげたいしまた起こしてもらってもいい?」
「かしこまりました」
そうして、次にネイの声を聞いた時には朝日が窓から差し込んでいた。
「ミア様、レイ様。起きてください」
体を揺すられながらまた起こされた。
「んぁ……ありがと、ネイ」
「んぅ……姉様ぁ……?」
「おはよ、レイ。よく眠れた?」
「……はい」
軽くあくびをしながら答えてくれる。
そんなふにゃふにゃの妹も、試験前になるといつものように周りを魅了する素敵な妹になっていた。
「姉様!ほら、行きましょう!」
さっきとは打って変わって私の手をどんどん引いていってくれる。昨日も来た試験室に入ると既に結構な人数が座っていた。
「今日は、最初筆記試験からだったわね」
「ですよ!姉様」
筆記試験と言ってもある程度の知識を持っていれば余裕だし、こんな測定試験を受ける身分の人間ならほとんどが家庭教師を雇っているから本当にどうしようもない人をあぶりだすのがメインな気がする。
「レイは余裕そうね」
「姉様だって余裕でしょう!」
「んー……。だといいけれど」
実は最近クランの任務を受けてばっかりだったので、久しぶりにネイに復習の手伝いをしてもらったが少しヒヤッとするところもあった。
「皆、座れ~」
そんなことを考えていると壇上に大量の紙束を抱えた教師が現れる。レイも私から離れて、少し離れた席に座る。
「これから試験の問題と解答用紙を配るから喋るなよ~」
なんだかちょっと適当そうな印象を与える人だが、予想に反して正確に手早く配っていく。
「足りないものはいるか~?」
私達の周りで手を上げる者はいない。ネイが用意してくれたインクとペンを机の上に置く。
「では、これから試験を始める。この時計で試験時間を計測するからそのつもりで。でははじめ!」
黒板の上に掛けてある大きめの時計を指さした後、そのまま手を叩いて開始の合図をする。
問題を開くと昔習った、この世界の歴史に関する問題が目に入る。これなら解けそうだ。出だしが順調に進んでいったのでその調子で問題を解き進めていく。
そして、最後の問題を書ききった所で一度伸びをする。周りをちらっと見るとちらほらと終わって暇そうにしている人もいる。時計を見ると残り時間は三割くらいだ。
(……暇ね)
軽く見直しをしつつ残りの時間が過ぎるのを待つ。
「やめ!」
その声で一斉に皆が顔を上げる。
「これから回収するからペン持つなよ~!」
そう言って壇上の教師は端から問題と回答用紙を回収していく。回収し終わって全部あるかを確認している。
「うん、全部あるな。じゃあ昼挟んで次の試験は第二戦闘試験だから頑張れよ~」
そのまま彼女は教室を出ていった。
「姉様!試験どうでした?」
お昼の休憩に入ったから、早速レイが私に話しかけてくる。
「まぁまぁ、かしらね」
「てことはだいぶ良かったってことですね!」
「レイこそどうだったのよ」
「ばっちりです!」
ピースサインまでして、自信満々そうだ。
「ミア様、レイ様。お食事の用意をしてあります」
ちょっとだけ豪華な食事が私達の目の前に広げられる。もしかしてネイ達の手作りだろうか。
「ありがとうネイ、オーバ。いただきます」
「いただきます」
この美味しい食事を食べ終えたらまた試験だ。