試験前半戦
剣戟の音が響く。体格差はほとんどないどころか生徒の方が大きいくらいなのに全ての斬撃がいなされて、かわされていく。流石学院の教師、かなり強いらしい。
暫く打ち合っていたが段々と彼に疲れが見え始めて、ついには剣を弾かれてしまった。
「ふむ。君の力は大体わかった」
そう言って彼女は紙に何やら書いて次の生徒の名前を呼ぶ。それをしばらく繰り返した後に妹の名が呼ばれた。
「次、ラスティナ・レイリーン」
「はい!」
こっちをちらっと見た後に教師の元へ歩いていく。自信たっぷりそうだ。
「では、始め!」
二人とも構えたところで笛が鳴り試験が始まる。先に動いたのは妹だった。一気に距離を詰めて炎をまとった斬撃を叩きつける。少し長い剣のおかげでリーチが長く威力が高そうだ。
「たあぁっ!」
流石試験官。しっかりと受けられるが、一度距離を離して次は横から斬撃を、また受けられたら切り上げを、間断なく妹の攻撃が続けられる。数回受けるうちについに教師が一回弾かれる。大きく体勢を崩すことはできなかったが、その隙を活かしてさらに追撃をして行く。どうやら体格に似合わぬ結構重い攻撃らしい。
「とぉりゃああ!」
気合いの入った声と共にかつて一緒に習ったあの技を決める。大きく燃え上がった剣を教師にたたきつける。数瞬の間二人の動きは止まったが、すぐに妹の剣が地面に直撃して大きく土煙が上がる。
「そこまで!」
視界が晴れて、そこに映っていたのは断ち切られた剣だった。どうやら妹の剣が教師の剣を断ってしまったらしい。
「なるほど。これはなかなかだな……」
何やら呟いている教師に一礼をしてこちらに戻って来る。背景ではまばらな拍手が聞こえる。
「姉様、どうでした?」
「流石レイね。信じられないくらい強くなってるじゃないの」
「えへへ。姉様に褒められちゃった……」
実際前に会った時より強くなっている。私より格段に強いかもしれない。妹を守るより妹に守られそうだ。
「次、ラスティナ・ミアリーン」
そんなことを考えていたら私の名前が呼ばれた。
「あ、姉様ですね」
「みたいね」
「頑張ってくださいね、姉様!」
「ええ」
新品の剣に変わった教師と向かい合う。
「始め!」
教師は動く気配がないので私から攻める。妹程の斬撃は出せないから数で攻めていく。身体強化系の魔法をほんのりかけているのでその分さらに素早く攻撃ができる。と言っても教師に全て受け切られてはいる。
「ふっ……!」
一度距離をとって右手で小銃を取り出し数発射撃する。法力が切れるまでは撃つことができるので私にぴったりなのだ。
しかし、その射撃も弾かれる。仕方ないので視界を邪魔する弾を一発放って教師の視界を奪ったところで一気に懐に入って剣を斬り上げる。
「はぁっ!」
金属のぶつかり合う甲高い音が響いて教師の手から剣が離れる。
「そこまで!」
「……君たち姉妹は強いな」
少し驚いたような教師を背にレイの元へ戻る。
「姉様かっこよかったです……!」
「レイほどじゃないわよ」
流石にあそこまでの威力を出すことはできなかった。その後も試験を見ていたが、私達の他に数人教師の剣を弾いて勝ち判定をもらっている者がいた。
全員の試験が終わると、軽く休憩があってネイ達に持ってきてもらったお茶を飲んで一息つく。
「ネイのお茶久しぶりだなぁ。美味しいっ」
「ありがとうございます。レイ様」
やっぱり彼女のお茶は私達の馴染みの味だ。オーバも軽食のようなものを持ってきてくれていて軽くそれをつまむ。昔に戻ったみたいだ。
少しだけの休憩時間はあっという間に過ぎて一日目最後の魔法試験が行われる。
「これから、一人ずつ目の前の試験石に法力を流すんだ」
目の前には少し大きい、1メートルくらいだろうか、不透明な水晶のようなものが置かれている。一度に五人ずつ試験を行えるようだ。
「姉様。見ててくださいね」
レイが私の手を握って上目づかいでお願いしてくる。
「もちろん、応援してるわ」
本当にいつみても可愛い妹だ。妹を狙う視線もいくつか感じられる。野獣どもめ。絶対に妹を渡すわけにはいかない。
妹を含めた五人が準備完了して、みんな一斉に法力を流し始める。あの石は法力を流すとほんのりと光り出すようでカラフルだ。昔聞いた話だと向いている魔法によって色が変わるとかなんとか。あの光が消えると法力の注入が終わったサインなのでそれで計測を終えて結果が伝えられるようだ。
しばらくして妹の試験席から光が消えて、五人中二番目に遅く戻ってきた。法力を限界まで注入したようでふらふらになりながら戻って来る。
「ね、姉様……私どうでしたか……?」
「頑張ったわね。ずっと見てたわ」
そう言って頭を軽くなでると目をキラキラさせて抱きついてくる。
「姉様も頑張ってくださいね。やる気注入……!」
「ありがと、レイ」
彼女の介抱はオーバに任せて私も試験席の前に向かう。
「ラスティナ・ミアリーンだな」
「はい」
書類をめくりながら二人の試験官がこちらを見てくる。
「では、法力注入を開始してくれ」
「はい」
両手で石に触れて法力を一気に入れる。両の目を閉じて集中して法力を流し込む。どんどん吸われていく感覚が気持ち悪い。
しかし十数分後、力を流し続けていたら肩を叩かれた。目を開けるとちょっと引いている試験官が終了を告げてくる。
「もういいぞ」
まだいけそうだったのに急に止められる。
「全く……規格外すぎる。これ以上注入するのは危険だ」
「注入回路も法力量も尋常ではないぞ……」
試験官が少し怪訝な顔をしながら何やら書きこんでいる。色々書き込まれた結果用紙を貰って妹の元に戻る。